実在しなかった交際相手の「女子高生」。嘘を暴くため、男は微表情研究者となった

合理的行動だけで説明できない人間の答えは、きっと科学の中にある

 警察官になるか、検察官になるか、ウソ検知の研究者になるか、色々考えましたが、取りあえず科学的に解明しようと試みることが一番の近道だと直感し、合理的な人間行動を学ぶために、経済学部に入学し、合理的行動だけでは説明できない人間行動を理解するために、メディア・コミュニケーション系を学際的に扱う大学院に入院し、8年の学生期間を過ごすことになりました。  大学院生の時に、7つの表情が万国共通であること、抑制しきれない感情が微表情として漏洩すること、微表情とウソとに相関があることを知り、「微表情を学べば世界中の人のウソがわかる!」と思い、微表情の世界に夢中になりました。  その後、警察官僚と大学の研究者とを同時に目指す時期を経て、最終的には自分で起業するという全く想定外の道を選択することになりました。現在、国内外の研究者や企業と連携し、表情・微表情をはじめとするウソのサインやミス・コミュニケーションに関する実験・研究・実務転用をしています。  現在の私のウソ検知スキルを過去の私が持っていたら、彼女のウソはわかったんだろうか、と今でもふと思うことがあります。彼女は微表情を漏洩させていたのでしょうか、それとも妄想の自分と現実の自分との乖離がなく、微表情は漏洩していなかったのでしょうか。

ウソの裏側に想いを馳せる

 事件から数十年経ち、一度だけ、彼女のような自身のパーソナリティーを意図か意図せずしてか偽る人物に関わりました。その彼女のウソは容易に見抜くことが出来たため、今回の事件のような事態には発展しませんでした。それは私のウソ検知能力が向上したからなのか、彼女のウソが下手だったからなのか、その両方なのか、わかりません。  私は、現在37歳ですが、この20年弱の間に、自身のパーソナリティーを全く偽る人物に2回も遭遇したことになります。もしかしたら、もっといた(る)のかも知れません。もっとも、私たちは自身のパーソナリティーや出来事を全て正直に公開するわけはなく、多かれ少なかれ偽る部分はあるでしょう。その偽りが微表情となって現れるとき、ウソそのものの発見だけでなく、なぜウソをつかなくてはいけないのか、日々ウソに接するうちに、ウソの背景に想いを馳せるようになりました。  そうすることで、咎める必要のないウソであることがわかったり、ウソをつく必要のない状況・関係作りを工夫することが出来るようになります。  今回の事件は、私の心に大きな穴を空けましたが、その穴を埋めたのは人間に対する絶望ではなく、人間に対する希望でした。それを可能ならしめているのは、数奇なめぐり合わせと科学です。  私と微表情との関係は、これからも続きます。 ※今回の記事内容は、本当にあった事件を基にしています。したがいまして、実在の人物や人間関係が特定されないように、話の大筋が変わらない程度に所々、変更、脚色、事実と異なることを加えています。 <文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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