こうして「国の血液」とも称されるトラックドライバーたちに、今回のトイレットペーパー騒動以外に生じているコロナの影響について聞いたところ、その答えにはバラつきがあった。
同じ運送業でも、「運んでいるモノ」によってその影響は大きく違ってくるのだ。
「仕事が大幅に減った」と答えるのは、各イベントで使用する機材などを運ぶトラックドライバーや、中国をはじめとする海外からのコンテナを運ぶトレーラーのドライバーたちだ。
現在、ブルーカラー(作業服労働者)の間では、「部品や製品が中国から入ってこないために作業が途中でストップしてしまい、納品できない」という状況が各所で生じているが、こうした異変をいち早く感じ取ったのも、海上コンテナを運ぶトレーラーのドライバーだった。
国による大規模イベントの開催自粛要請は、演者や現場スタッフはもちろんだが、こうした運び手の仕事や収入をも奪っている。
3月14日に刊行された自著『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)でも述べている通り、トラックドライバーの多くは
「日給月給」という給与体系で雇用されているため、仕事がなくなりその日が休みになれば、収入もそのまま吹っ飛ぶのだ。
一方、二次輸送と言われる、いわゆる「宅配業務」は、各企業のテレワークの導入、国からの学校休校や不急不要の外出自粛の要請を受け、運ぶモノが多様化している。
大手宅配業者や大手ECサイトAmazonの配送員たちに話を聞いたところ、現在飛ぶように売れていると感じるのがレトルト食品、水、コメといった生活インフラのための備蓄品だという。また、家で過ごす時間が増えるため、書籍のほか、トレーニングマシーンやダンベルといったジム用品なども多く運ぶ印象があるとのことだった。
冷蔵冷凍車のトラックドライバーからは、休校になり家で留守番をする子どもが増えたことで冷凍食品が大きく動いているという話が聞こえてくる。が、あくまでもそれは家庭用で、レストラン向けの冷凍食品は逆に5~6割減ったと感じるとのことだった。
そんな中、コロナ騒動以前にはなかった現象として挙げられるのが、「巣ごもり消費」だ。
外出を避ける消費者からは、
「暇だからやることがネットショッピングしかない」
「何もできない歯痒さにネットショッピングでポチポチ」
「今は大人しくネットショッピングで経済を回します」
「コロナのせいで払い戻しなどがあり、ストレス発散も兼ねてネットショッピング。色々と届くため、ますます引き篭もりに拍車をかけている」
といった声が聞こえてくる。
しかし、3月と4月は元々、卒業や入学入社などによって贈り物が行き来し、引越し時期とも重なるため、業界は1年の中でも繁忙期に当たる。
仕事が減り、倒産寸前の同業者がいることを考えると、こうした巣ごもり消費は手を広げて歓迎したいところだが、今後こうした外出の自粛が続けば、荷量はさらに増加し、配達の遅延や物流のパンクなどが生じるのでは、と予想するドライバーもいる。
余談だが、
「新型コロナ禍の中、重視される『咳エチケット』。喘息持ちや花粉症の人は困惑も」の記事を執筆する際、トラックドライバーにもマスクの装着についてアンケートを取ってみたところ、マスクを「終日付けている」が11.9%、「車内では付けないが構内作業では付ける」が31.4%、「終日付けない」が49.8%となり、ほぼ半分のドライバーがマスクを終日付けていないことが分かった。
その大きな理由としては、彼らは基本的に1人で行動することが多く、感染をしたりさせたりするリスクが少ないからというのが前提にある。
が、その他の理由として、「運転中にマスクをすると温かい空気で眠くなってしまう」、「メガネをしてマスクをつけると曇りやすくなるが、運転中だと危なくて直せない」、さらには「喫煙率が高いトラックドライバー(一般が約27%に対しドライバーは約44%)にとって、マスクは邪魔」という意見もあった。
現場のトラックドライバーは、こうしたコロナによる騒動や混乱の中でも、我々の生活インフラを守るべく、今日も第一線で日本中を走り回っている。
先が見えない不安によって、今後もデマを信じたり不要な買いだめをしたくなったりすることがあるかもしれないが、物流が混乱すれば、今回のトイレットペーパーのように自らの首を絞める結果となることを理解し、冷静に経済を回していきたいところだ。
<取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto