国会議員は危機の時に何をすべきか? 独断でも持論の展開でもない、何よりも大切なこと

ここぞとばかりに持論を展開していないか

 しかし、読者の皆さんには、冷静に考えて欲しいのです。もちろん、誰でも税金をできれば払いたくないという気持ちを多少なりとも持ち、税金が安ければ安いに越したことはないと思うでしょう。2019年10月の消費増税が、経済にどのような影響を与えたのかは、もう少し経済統計を精査しなければ確かなことは言えませんが、経済の先行き不透明な状況で増税したのは確かです。桜を見る会や森友学園、加計学園、東京高検検事長の定年延長、イージスアショアの問題などを見るにつけ、そんなことのために税金を払いたくないと思うのも、人情です。ですから、消費減税を求めたくなる気持ちは理解できます。それでも、いったん冷静に考えてください。  個人・企業の資金ショート(資金繰りの行き詰まり)が目下の課題なのに、そのことに政治的なエネルギーを集中しなくて、いいのでしょうか。個人の確定申告は1か月延長されましたが、それでも4月半ばには、税金を支払わなければなりません。企業の申告も、まもなくやってくる納税期日までに、税金を払わなければなりません。個人・企業も、家賃やローン、公共料金、原材料費、人件費など、その他の支払い期日は次々に迫ってきます。手持ち(銀行口座)の現金がなくなれば、どれだけ収入があっても、個人ならば、借家を追い出されるかもしれませんし、カードを使えなくなるかもしれません。企業ならば、どれだけ売掛金があっても、不渡り・倒産となってしまいます。そのためには、体力のある行政・大銀行・大企業が、支払い期日を猶予する必要があります。とりわけ、行政がそれを行う必要があります。  とはいえ、政府が大規模な納税猶予を決定するのは、容易でありません。政府も日々の支払いを抱えていますから、資金をショートさせるわけにはいかず、短期の国債を大量発行するなど、政治的に重大な決定が必要です。そのための合意形成の時間は、数日単位で残されているにすぎません。  大銀行や大企業に支払い猶予をしてもらうには、それを促進するための法整備も必要でしょう。政府の要請に従っても、損失は自己責任というならば、誰も猶予しません。実際、格闘技イベントのK1は、前日の政府からの中止要請にもかかわらず、イベントを実施しました。要請に従っても、経営危機は自己責任でとなれば、止めるに止められないのです。イベント主催者を責めるのは筋違いです。  一方、消費減税をしても、コロナウィルス問題で経済活動自体を抑制していますから、需要を喚起しようがありません。もし、減税で需要を喚起すれば、今度は感染拡大の問題になります。需要喚起と感染対策は、二律背反なのです。また、減税によって、必ずしも需要を喚起できるとは限らず、中小零細事業者に大きな負担を与えかねないとの指摘があります(金子勝「もし君が首相になりたいと言うならば」『世界』20年4月号)。  それにもかかわらず、国会議員たちが消費減税を求めるのは、なぜでしょうか。筆者には、コロナウィルス問題を奇貨として、ここぞとばかりに持論を展開しているように見えます。感染対策であえて経済活動を抑制している現実を直視すれば、少なくとも需要喚起の政策は出てこないはずです。経済活動を抑制しても、人々や企業がなんとか生き残れる方法を探るはずです。  我田引水の持論展開を抑え込むことこそ、危機の時の政治リーダーの役割です。安倍首相の独断を受けて、件の議員たちが持論展開を触発されたとすれば、首相の政治リーダーとしての問題です。

危機の時こそ、議員は人々の声を聴け

 自治体の危機管理研究において、議会・議員の役割をどうすべきか、今のところ意見の一致はありません。対策本部と住民を結ぶ重要なパイプと捉える専門家から、対策本部を混乱させる要因と捉える専門家までいます。正直に言いますと、筆者は、最近まで混乱要因に近い見方をしていました。様々な角度から考えても、危機の最中に議員の出番はないように思えたからです。  ただ、今回のコロナウィルス問題における与野党の一部議員の動きを観察し、議員ならではの役割があると気づきました。議員もできる役割でなく、議員でなければできない役割です。  それは、住民や関係者の「困っている」「不安を感じている」の声を丁寧に聴き歩くことです。何に困っているのか、何に不安を感じているのか、何に不満を抱いているのか、様々な立場の人々の声を一人ひとり聴くことです。  間違えてならないのは、議員の考える対策・政策への意見を聴くことではありません。問題に対してどのように対応すべきか、公共政策の専門家でない人たちが、突然に聴かれても答えようがないからです。せいぜい、メディアで見聞きするようなステレオタイプな意見を述べるのがせいぜいです。  もっともやるべきでないのは、議員の考える対策・政策への支持を求めることです。困っている人たちに持論を展開して、何になるのでしょうか。虚心坦懐に、困っていることを聴き取ることが大切です。  一人ひとりの困っている・不安を感じていることも、まとめると共通の問題が見えてきます。それを整理して、国会に持ち寄り、行政・団体・専門家からの情報やデータなどと総合して、問題の真の原因(ボトルネック)を見い出し、効果的な対策を政府に求めるのです。  行政は、こうした個別の定性的な問題を扱うことを苦手としています。議員・議会ならではの役割というわけです。  とにかく、平常時はもちろんのこと、危機の時こそ、議員には人々の「困っている」を聴き歩いて欲しいのです。持論を封印し、誠実に人々の声を聴いて欲しいのです。そして、与野党ともに、国会で議員たちの集めてきた「声」を総合し、的確な対策を素早く打つことを期待しています。  それによって、すべての個人・企業の資金繰りがうまくいき、この苦境を日本全体で乗り切ることを心から祈っています。 <文/田中信一郎>
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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