ヒートショックだけじゃない。室温が18℃以下になると発生する健康リスクとは?

シンポジウム

2月21日に行われた「住宅の断熱化と居住者の健康影響に関する全国調査第4回報告会」のシンポジウムで意見交換する医師や研究者

 住まいの寒さが、高血圧やヒートショックなどの健康被害を助長することは知られつつあります。日本では従来、その因果関係を証明するデータが不足すると扱われてきましたが、2014年から行われている国土交通省などの関わる大規模調査により、さまざまなことが明らかになってきました。  2月に行われた報告会では、心臓病や脳卒中など循環器系疾患や、肺炎など呼吸器系の疾患だけでなく、コレステロール値や心電図、夜間頻尿、睡眠障害、肩こり、家庭内のつまずきや骨折など、さまざまな症状に影響を与えていることが伝えられました。こうした調査を受け、今後は日本社会の常識も大きく変わる可能性があります。

血圧に与える影響は男女ともに大きなレベル

 報告を行ったのは、住宅の断熱化と居住者の健康影響に関する全国調査(2014年度〜2019年度)です。調査では、断熱改修をした住宅に暮らす4000人以上の住人を対象に、改修前と改修後の健康状態の変化を5年間にわたって比較したもので、2019年度からは追跡調査を続けています。  顕著だったのは、寒さによる高血圧への悪影響です。室温と高血圧との関係は、これまでは大規模な調査データが少なかったため科学的根拠に乏しいとされ、高血圧治療のガイドラインでも軽い扱いを受けてきました。  しかし全国調査では、室温が10度低下すると、30歳の男性は血圧が3.8mmHg上昇することがわかりました。さらに年齢が上がるごとに血圧は上昇し、80歳男性になると10mmHg以上上昇しています。その傾向は女性も同様でした。また寒いに住んでいると、実際の年齢の上昇以上のスピードで、血管年齢が高齢化していくこともわかってきました。
血圧と室温

高齢者ほど、室温の影響を受けて血圧は変化しやすい結果に(出典:日本サステナブル建築協会「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会」より)

 厚生労働省は、40歳以上の国民の最高血圧を年間で平均4.2mmHg下げることを目標に掲げています(厚生労働省「健康日本21」の目標値より)。この目標を達成できれば、脳卒中による死亡者を年間1万人、心筋梗塞による死亡者を年間5000人減らせるとしています。その基準から考えると、室温が血圧に与える影響はかなり大きなレベルであると言えます。

脱衣所の室温アップがヒートショック予防のカギ

 脱衣所や浴槽、トイレなどで血圧の急激な変化により意識を失う、いわゆるヒートショックで亡くなる人は、家庭の浴槽での溺死者数に限っても、2018年に5398人(厚生労働省人口動態調査より)。同年の交通事故死者数の3532人を大きく上回っています。さらに溺死とされなかった場合も含めると、入浴中に何らかのアクシデントにより命を落とした人の数は年間で約1万9000人と推計されています(消費者庁による分析)。  交通事故による死者数は、警察や自治体の規制、あるいは自動車の高性能化などによって、着実にその数を減らしています。一方、ヒートショックについては十分な対策が施されているとは言えません。ヒートショックによる死亡者数の9割以上は、65歳以上の高齢者です。このままでは、高齢者人口の増加とともにその数を増やしていくと予測されています。
室温と入浴

断熱改修により居間と脱衣所の室温が上昇した家庭では、熱めの湯に入る人が減少した(出典:日本サステナブル建築協会「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会」より)

 消費者庁のヒートショックへの注意喚起では、湯船の温度は41℃まで、入浴時間は10分までとされています。しかし、全国調査では居間と脱衣所の温度が18℃に満たない家庭では、18℃以上の家庭に比べ、湯船の温度が「熱め(42℃以上)」になり、入浴時間も10分を超える傾向があることがわかりました。居間も脱衣所もともに18℃未満の家庭の場合、42℃以上の湯船に浸かる人が、1.66倍も多いという結果が出ています。  しかし、住宅の断熱改修をして居間と脱衣所の室温が18℃以上に上昇した家庭では、湯船の温度が「熱め(42℃以上)」と回答する割合が下がりました。このことは、住宅を暖かくして冷えを解消することが、熱めの風呂に長く浸かるリスクを下げられる可能性を示しています。
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冷えは外傷にもつながる!?
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「寒い住まい」が命を奪う ~ヒートショック、高血圧を防ぐには~

家が寒いと光熱費がかさむだけではなく、健康にも大きな影響が…