ヒートショックだけじゃない。室温が18℃以下になると発生する健康リスクとは?

冷えで骨折・ねんざが増える?

室温と骨折・ねんざ

室温が下がると骨折・ねんざも増える傾向に(出典:日本サステナブル建築協会「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会」より)

 また全国調査では、家を暖かく保つことが血圧の改善やヒートショック予防だけでなく、ケガのリスクを減らしたり、他のさまざまな疾病を改善したりする可能性も示しました。例えば、室温と骨折・ねんざとの関連では、室温が14℃以上の居住者に比べ、14℃未満の居住者は1.7倍も多くなっています。 「家が寒いと骨折のリスクが増える」というのは意外かもしれませんが、これは寒さにより「皮膚表層部の血流量が減少し、周辺の筋肉が硬直することでケガにつながっている可能性」が指摘されています。
室温と自覚症状

室温が上昇すると、さまざまな自覚症状が改善する傾向のあることがわかってきた(出典:日本サステナブル建築協会「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会」より)

 また、住宅の断熱改修をして室温が上昇した家庭では、夜間頻尿(過活動膀胱)、肩こり、体のだるさ、風邪、鼻づまり、切り傷・やけど、発疹などさまざまな健康に関する自覚症状が改善するという結果が出ました(室温上昇は平均で16.5℃から19℃に上昇)。

既存住宅の4割が無断熱。およそ9割が、冬季の脱衣所が「18℃未満」

住まいと健康のガイドライン

WHOの「住まいと健康のガイドライン」

 健康維持のため、冬は居室だけでなく全ての部屋を暖かくすることが、世界的な常識になりつつあります。2018年末、WHO(世界保健機構)は「住まいと健康のガイドライン」で、冬季の室温を最低でも「18℃以上」にすべきとの強い勧告を出しました。18℃あれば十分ということではなく、子どもや高齢者はさらに暖かくすることも推奨されています。  しかし、日本では既存住宅のおよそ4割が無断熱のままとなっています。全国調査では居間の平均室温が18℃未満だった住宅は60%、さらに寝室と脱衣所に関してはおよそ90%の住宅が18℃未満だったことがわかりました(寝室の平均値は12.8℃、脱衣所の平均値は13.0℃)。  WHOのガイドライン作成に携わった近畿大学医学部の東賢一准教授は、全国調査の報告を受けて以下のように述べました。 「寒さが循環器系疾患のリスクになることは、以前から医師たちの間では知られていました。今回のような調査を今後も続けていくことで、住環境が疾患と結びついていると明らかになってくるでしょう。住環境を良くしていけば、冬季に死亡する方を減らすことができるのではないかと予想されます」  WHOは、寒い住まいを改善する対策として、新築時や改修時に家の断熱を推奨しています。日本ではこれまで、断熱改修というといくら費用をかけると光熱費がどれくらい削減できるかというコスト面のみで判断されがちでした。しかし、家を暖かくすることで健康になるという利点が広く認知されるようになれば、断熱改修のメリットはより大きくなり、やってみたいと考える人も増えるはずです。  とはいえ、意識の高い個人の努力だけに頼るのは限界があります。社会全体で建物のグレードを上げていくためには、国や自治体の制度変更が欠かせません。欧米の多くの国や地域では、住宅の省エネ基準が義務化され、断熱レベルの著しく低い建物は建てることが許されなくなってきています。また、断熱改修に積極的に補助を出している国も増えています。 しかし日本ではこれまで、住まいと健康の因果関係を証明するデータの不足を理由に、建物の省エネ性能の義務化が見送られる(2019年)など、積極的な政策がとられてきませんでした。今回紹介したような調査報告を踏まえて、国として住宅の最低限の省エネ基準を義務化し、寒くない建物が当たり前の環境を築くことが早急に求められています。 【ガマンしない省エネ 第19回】 <文/高橋真樹>
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)。昨年末にはハーバービジネスオンラインeブック選書第1弾として『「寒い住まい」が命を奪う~ヒートショック、高血圧を防ぐには~』を上梓
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「寒い住まい」が命を奪う ~ヒートショック、高血圧を防ぐには~

家が寒いと光熱費がかさむだけではなく、健康にも大きな影響が…