香料を含有する家庭用品を使用しないことが賢明と指摘
マニトバ大学健康科学部小児科アレルギー・臨床免疫学セクションのエリッサ・M・エイブラムズ博士は、CMAJの同じ号にこの論文の解説を執筆し、これまでにも大人や若年層のぜんそくと洗剤の関係を調べた研究は存在したが、ぜんそくの多くは子どものときに発症するものであるため、このような調査は非常に重要だと述べている。
またこの論文は、ぜんそくのリスクのある子どもを持つ家庭にとって、簡単にできる予防法を提示していることも指摘している。そして、これまでに行われた数々の研究の結果からわかるように、「
すでにぜんそくと診断された子どもやぜんそくのリスクを持つ子どものいる家庭では、香料を含有する家庭用品を使用しないことが賢明だと言えそうだ」とも述べている*。
〈*
Elissa M. Abrams, “Cleaning products and asthma risk: a potentially important public health concern”, Canadian Medical Association Journal, 192 (7), E164-E165, February 18, 2020.〉
ちなみに、1904年に設立され、ぜんそくをはじめさまざまな呼吸器疾患の患者を支援する市民団体、
アメリカ肺協会(American Lung Association)は、これまで発表された多くの呼吸器疾患に関する研究結果から、
室内の空気を汚染しないためには「VOC(揮発性有機化合物)、香料成分、刺激成分……を含まない、または含有量を控えめにした洗剤」を使用することを推奨している。香料成分の多くはVOCであり、刺激物質である。さらに同協会は、すべての芳香剤は使用すべきではないとしている。*
〈*
American Lung Association, “Cleaning Supplies and Household Chemicals”.〉
ぜんそくは日本でも公衆衛生上の重大な問題だ。2008年の時点で日本のぜんそく患者は800万人だという**。実に全国民の6.2%がぜんそくを患っているのだ。*
〈*厚生労働省健康局がん・疾病対策課
「アレルギー疾患の現状等」平成28年(2016年)2月3日〉
洗剤や芳香剤などの香料成分がぜんそく発症の原因となることが、すでに多くの研究で知られているのであれば、生まれて間もない時期にそうした製品を控えることでぜんそくのリスクが少しでも減らせることを、妊娠中の女性たちにもっと広く知らせていくべきではないだろうか。
ただ、大手洗剤メーカー3社は、いずれもそのホームページのQ&Aコーナーで、自社の柔軟仕上げ剤を「赤ちゃんの衣類に使っても良い」と回答している。
そのうちの一社のホームページだけは「香りが気になる場合は、香りが弱いもの、無香性のものを選びましょう」と但し書きがしてあるが、「香りが気になる」という表現はあいまいであり、何の知識もない人がこの文言から健康への害をイメージすることは難しいだろう。
いずれにしても、柔軟仕上げ剤、洗濯用洗剤、台所用洗剤、抗菌スプレー剤などについて、もしも洗剤メーカーが「香料成分は乳幼児の健康に影響はないか」と質問されたとしても、「ある」などと回答することはおそらくないだろう。そして子どもにとっては清潔さが最重要と思われがちなこの国では、乳幼児がいる家庭ならなおのこと、洗剤や抗菌スプレーが熱心に消費されるのかもしれない。