「聞いて質問する」ことが生む大変革。保険業界の巨人が語る営業術

 働き方改革の推進、価値観の多様化、環境変化の加速により、ボトムアップの巻き込み型のリーダーシップの必要性がさらに叫ばれています。しかし、それが出来るリーダーは未だ限られています。今回は、決して押しつけない、質問だけのクロージングでトップセールスになり、保険代理店経営者として、そして、一般社団法人保険乗合代理店協会理事としても手腕を発揮している足立哲真氏に、本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫ります。

押し売り営業を払拭したかった

R&C株式会社代表取締役・足立哲真氏とモチベーションファクター株式会社代表取締役・山口博氏

R&C株式会社代表取締役・足立哲真氏(右)とモチベーションファクター株式会社代表取締役・山口博氏(左)

 山口博氏(以下、山口):「私はボトムアップの巻き込み型リーダーシップの実践演習プログラムを実施しています。その根底には、保険営業担当者が一方的に保険の説明をして、『保険は必要だ』『保険に加入しないとたいへんなことになる』と畳みかける、いわば押し売り営業を払拭したい思いがありました。  足立さんとお会いするたびに、押し売りとは真逆の、質問による営業プロセスを進めていることに感心しています。いつからそのようなセールススタイルを体得されたのですか」  足立哲真氏(以下、足立):「私は保険業界に大学3年生時にインターンで入りました。右も左も分からないなかで、初めて営業に同行させていただいた時に、先輩社員がいきなり商品の押し売りをし始めたんです。当然のことながらお客さまとの成約には至らず、二度とそのお客様のところにも行けませんでした。  それを見て、絶対にこれではお客様に納得してご加入にはいただけないと、初めて同行した現場からではありましたが『このやり方は違う』と明確に感じました。反面教師として、このような押し売りは絶対にしてはいけないとの思いから現在のスタイルになっています」  山口:「先輩の姿に抵抗感を覚える感性を既に持っていたのですね。そのようなセンスを持つようになったのは、何かきっかけのようなものがあったのでしょうか」  足立:「私の実家は飲食店をしておりまして、子供の頃から手伝いをしてお店の常連さんの話し相手になっていたのが大きいと思います。人に興味を持ち、話の真意や意図を汲み取りながら聞くということが意外に楽しく、喜んで話をしてくれる常連さんに質問をしたり深く突っ込んで聞いたりと。その経験が大きいですね」  山口:「しかし、人の話を聞くということは、辛抱が必要ではありませんか。言いたいことを言ったほうが、快適だなどと感じることはないでしょうか」  足立:「実は人の話を聞くということにあまり苦痛を感じない性格でして。もちろん実のない話や結論がない話などに対しては思うところはありますが、その際は質問をすることで話の道筋をつけるように意識しています。基本的には人の話を聞くほうが自分としては楽ですし、さまざまな意見や観点を聞くことができてプラスに働くことが多いと感じています」
R&C株式会社代表取締役・足立哲真氏

R&C株式会社代表取締役・足立哲真氏

「意識が行動を変える」のか「行動が意識を変える」のか

 山口:「私の想像ですが、飲食店の手伝いをし始めたときには、顧客の話を聞こうという意識は必ずしもなかったのではないでしょうか。手伝うという行動を繰り返すなかで、当然ながら顧客の注文や話を聞くという行動が積み重なって、習慣化する。その結果、まさに行動が意識を変えたということなのでしょうか」  足立:「その通りです。意識をするわけでもなく、聞くほうがお客さまが喜んで帰っていくということを実感として持っていると思います。行動が習慣化されたと思います」  山口:「『意識が行動を変える』と言う人は多いのですが、私は『行動が意識を変える』ことのほうが格段に短時間で実現できると考えています。足立さんは、それを実現されてきたように思います。  経営者として、トップダウンのマネジメントではなく、巻き込み型のリーダーシップを発揮してメンバーを巻き込んでいくために、心がけていらっしゃることは何ですか」  足立:「その人の願望や願いがどこにあるのかを考えながら、また傾聴しながらマネジメントをするようにしています。求める心や意識がなければ、何を言われても指示待ちでパフォーマンスは上がりません。また、何を言われるかよりも、誰から言われるかは意外と大きな要因だと考えております。  なので、シンプルに相手から好かれるようなコミュニケーションを取るように心がけています。当然、役職や人としてのレベルが上がると誰からよりも何を言われるかに重点を置かれると思いますので、レベルに合わせたコミュニケーションやマネジメントをするように心がけています」  山口:「足立さんと話していると、トップセールスとしても、経営者としても、許容量が大きいと思います。『これでなければだめだ』と思い込んでいるそぶりを目の色にも顔の色にも一切出さずに、相手の話をふまえて柔軟に対応されています。さまざまな企業で役員研修を実施していますが、それが出来る経営者は、実に少ないと思えてなりません。どんな心持ちでいると、許容量が大きくなるのでしょうか」  足立:「私の尊敬する経営者のお一人で経営の神様と言われる松下幸之助翁が、毎日『素直になれますように』と拝まれている話を聞いたときに感銘を受けました。どんな人からでも学ぶことがある、どんな事柄でも得られるものはあると。そのためには素直にならなければいけないと。  人間の悩みの根源は執着や我欲だと考えておりますので、自分の考えや正しさに執着しないように常に心がけています。相手にこうなってほしいと想う気持ちも当然ありますが、それ故に執着が生まれます。このバランスを取るのは非常に難しいことではありますが意識していることです」
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