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いまコンビニ業界は大きな曲がり角を迎えている。
昨年、東大阪のセブンイレブンのオーナーが二四時 間営業に反対し、自主的に営業時間の短縮に踏み切ったことが大きく報道された。コンビニのオーナーたち が人手不足の中、過酷な労働を強いられている実態に注目が集まり、24時間営業や元旦営業の見直しなどが議論されるようになった。
私たちはコンビニが24時間・365日営業してい ることに慣れ、それを当然のことだと考えてしまって いる。しかし、その裏では多くの人たちが厳しい労働 環境に置かれている。 私たちが当然と考えているものは、多くの犠牲の上に成り立っているのだ。
真正保守論壇誌
『月刊日本 2020年3月号』では、こうしたコンビニエンス業界が抱える問題について、「コンビニの闇」と題した特集を組んでいる。
今回は同特集の中から、明石順平氏へのインタビューを紹介しよう。
―― 明石さんは新著『人間使い捨て国家』(角川新書)でコンビニ問題を取り上げ、なぜコンビニが低賃金・長時間労働を強いられているのか、その仕組みを詳しく解説しています。コンビニのどこに問題があると考えていますか。
明石順平氏(以下、明石): 大きな問題の一つが
フランチャイズ制です。フランチャイズ制とは、フランチャイズに加盟する人や法人が、フランチャイズ本部から店の名前やサービス、商品を使う権利をもらい、その権利料(ロイヤリティ)をフランチャイズ本部に支払うという仕組みです。コンビニが一番目立っていますが、飲食店やクリーニング、学習塾、介護の業界などでもフランチャイズ制が採用されています。
フランチャイズ制では、各店舗のオーナーたちはフランチャイズ本部と契約する
個人事業主とされ、労働者として扱われません。そのため、オーナーには
労働基準法が適用されず、労働時間の規制は一切及びません。もちろん残業代も支払われません。
しかし、オーナーの実態を見ると、個人事業主と言えるかどうか疑問です。セブンイレブンの例で言うと、オーナーたちは
基本的に本部の発注システムを通して、本部の推薦する仕入れ先から商品を仕入れています。仕入れ先への伝票送付や支払いなど、仕入れ先とのやり取りは本部が行っており、オーナーはその取引内容を知ることができません。
また、
オーナーは毎日の売り上げを一旦本部に送金し、オーナーとしての報酬やバイト代は本部から支払われています。本当にオーナーであれば、自分の報酬は自分で決め、賃金の処理もすべて自分で行うはずです。
ここからもわかるように、コンビニのオーナーは「
名ばかりオーナー」にすぎず、実態は労働者そのものです。つまり、セブンイレブンの本部は本来労働者であるはずのオーナーを労働者として扱わないことで、人件費を削っているわけです。
もう一つの大きな問題は、いわゆる「
コンビニ会計」です。オーナーが本部に支払うロイヤリティは、売上から商品原価を差し引いた粗利に一定の割合をかけて算出されます。この割合は契約によって異なりますが、おおむね6~7割というきわめて高率になっています。
しかも、この商品原価に含まれるのは、実際に売れた商品の原価だけです。売れずに廃棄された商品や、万引きされた商品の原価は除外されるため、粗利が通常より水増しされ、ロイヤリティが増えてしまうのです。
たとえば、定価100円、原価70円のおにぎりを10個仕入れ、8個売ったとします。「普通の会計」では、売上は800円(100円×8個)、原価は700円(70円×10個)、粗利は100円(800円-700円)です。ここからロイヤリティが60%とられるとすると、次のようになります。
売上800円-原価700円=粗利100円
粗利100円×0.6=ロイヤリティ60円
これに対して、「コンビニ会計」では原価の扱いが変わってきます。普通の会計では、原価は仕入れたおにぎり10個の合計700円(70円×10個)でしたが、コンビニ会計では、
実際に売れた商品の原価しか原価と見なしません。そのため、おにぎりが8個売れたとすると、原価は560円(70円×8個)になります。ここからロイヤリティが60%とられるので、次のようになります。
売上800円-原価560円=粗利240円
粗利240円×0.6=ロイヤリティ144円
このように、コンビニ会計は普通の会計と比べ、粗利もロイヤリティも非常に大きくなります。極端な話、一つでもおにぎりが売れれば、そこから粗利が生まれ、ロイヤリティが発生します。つまり、
売上がゼロにならない限り、絶対にロイヤリティが発生する仕組みなのです。