オーナーを苦しめる「コンビニ会計」。そして、「搾取のトリクルダウン」の正体<明石順平氏>

1年間で43人のオーナーが死亡

―― 都心では同じチェーンのコンビニが数百メートル間隔で並んでいることも珍しくありません。 明石:それは「ドミナント戦略」と呼ばれるものです。ドミナント戦略とは、特定の地域に集中的に出店することで、ライバルチェーンを追い出し、その地域での優位性を確保することが狙いとされています。  一般に、同じ会社のお店が近くに2つあると、お客の奪い合いが起こり、採算は合わなくなります。しかし、フランチャイズ制の場合、それぞれの店舗は厳しい競争に晒され、売上が落ちていきますが、フランチャイズ本部は儲かるのです。というのも、先程述べたように、コンビニ会計では売上がゼロにならない限り、必ずロイヤリティが発生するからです。  コンビニ本部が積極的にドミナント戦略をとっていることもあり、コンビニの店舗はどんどん増えています。2003年と2017年のコンビニの店舗数を比較すると、約1.4倍にもなっています。  コンビニの増加は小売分野の労働者数増加に大きな影響を与えています。業者別雇用者数について、2012年から2018年の増加数を見ると、高齢化の影響から1位は医療、福祉となっていますが、卸売業、小売業は2位につけています。  平成28年経済センサスによると、コンビニの就業者数は65万578人、コンビニの数は4万9463となっています。つまり、1店舗あたり約13人働いており、店舗が1つ増えると、オーナーを除けば12人も雇用者が増える計算になるのです。  安倍総理はアベノミクスによって総雇用者所得が増えたと自慢していますが、それは雇用者が増えたからであり、そこにはコンビニの就業者数が増えたことも関係しています―― 最近メディアでは、学生アルバイトへのパワハラやオーナーの自殺など、コンビニの劣悪な労働環境に関する報道が増えています。 明石:オーナーは本部から多額のロイヤリティを搾り取られており、経営が苦しいため、高いアルバイト料を出せません。しかし、条件が悪いと、アルバイトはすぐにやめてしまいます。そのため、退職を妨害する事例が発生しています。また、不足するアルバイトを補うため、外国人を雇う店が増えています。  これはコンビニに限らず、フランチャイズ制を採用している業界ではどこでも見られるものです。私が弁護を担当したフランチャイズ制の飲食店では、休みなしでの4ヶ月連続勤務の強制や、残業代の不払い、暴行・脅迫が発生していました。被害者は毎日のように暴行を受け、「やめたら家族に数千万円の損害賠償請求をする」などと言われていました。  もちろんこれはオーナーが悪いのですが、オーナーも苦しい立場に置かれているため、そのしわ寄せが学生アルバイトや外国人労働者に及んでいるわけです。いわば「搾取のトリクルダウン」が起こっているのです。  他方、オーナーは、人件費を削るため、自らシフトにたくさん入っています。彼らは異常な長時間労働を強いられ、過労死の危険に晒されています。  実際、セブンイレブン加盟店共済会の資料によると、2012年7月1日から2013年6月30日の1年間で、一般の死亡保険金に該当する弔慰金を支払った人は43人もいます。また、病気やケガで仕事ができなくなったときに支払われる就業不能見舞金は、2012年には490件も給付されています。  オーナーは開店資金を捻出するために多額の借金をしていることが多いです。途中でやめると借金が返せなくなるため、やめたくてもやめられません。また、契約書に高額の違約金条項があるため、途中でやめると違約金が発生してしまいます。そもそも仕事をやめると生活の糧を失うため、やめることができないのです。

本部はオーナーを直接雇用せよ

―― コンビニの現状はとても看過できるものではありません。裁判は起こっていないのですか。 明石:コンビニ会計の有効性をめぐり、オーナーが裁判を起こしたことがあります。東京高裁は、コンビニ会計が普通の会計とは違うことが契約書にはっきり書かれていないとして、オーナー側の言い分を認めました。ところが、最高裁はこの判断を覆し、契約書にはコンビニ会計のことが書かれているとして、オーナー側の主張を退けたのです。  しかし、会計によほど詳しい人でなければ、契約書を読んでもコンビニ会計の罠に気づくことはできません。そもそも契約書を隅から隅まで読んで契約する人はまれです。裁判官たちにしても、たとえば携帯電話の契約を結ぶときに、契約書を隅から隅まで読んで契約するわけではないでしょう。  もともと最高裁はこうした杓子定規な判断をする傾向にあります。もし最高裁がコンビニ会計を無効と判断すれば、日本全国のコンビニが大混乱に陥り、多くのコンビニが潰れます。そのため、最高裁は既成事実をひっくり返すような判断は避けたがるのです。 ―― いま苦しい立場に置かれているオーナーはどうすればいいのでしょうか。 明石最高裁がコンビニ会計を認めてしまった以上、オーナーの立場を改善することは困難です。いまコンビニのオーナーたちはユニオンを作り、オーナーの現状を社会に訴えています。あのような活動を続けていくことには意義があります。しかし、ユニオンで活動すれば、本部からにらまれ、契約更新を打ち切られる恐れもあります。だからすべてのオーナーがユニオンに参加することは困難ですし、現にそうなっています。 ―― とすれば、フランチャイズを規制する法律を新たに作るしかありません。 明石:その通りです。日本にはフランチャイズそのものを直接規制する法律がありません。コンビニ業界に関して言うと、本部がロイヤリティをとりすぎなので、まずはここに規制をかけるべきです。また、コンビニ会計も廃止する必要があります。24時間営業もやめるべきです。さらに、正当な事由がなければオーナーを解約できないようにすることも必要です。  こうした規制をかけると、今度はコンビニの本部が苦しくなり、コンビニが潰れ、オーナーが行き場を失う可能性があります。その場合は本部がオーナーを直接雇えばいいのです。本部は雇用責任を果たすべきです。  私の提言は厳しすぎると思われるかもしれませんが、毎年たくさんの労働者が長時間労働で亡くなっている現状のほうが異常なのです。日本の労働システムは、たくさんの労働者が「仕事に殺されること」を前提に成り立っています。このようなシステムは絶対に改めなければなりません。 (1月27日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2020年3月号

【特集1】世界激震!新型コロナウイルスの猛威
【特集2】国家の私物化、隠蔽・改竄・安倍政権 安倍総理よ恥を知れ!
【特集3】コンビニの闇
【特集4】ゴーン海外逃亡暴走を続ける特捜部
特別インタビュー・共産党への偏見を捨てよ 慶應大学名誉教授弁護士・弘中惇一郎