四国電力の報告書を見ると、中央給電の確認、指示のもと2号炉起動変圧器を母線切り替えしようとしたときに、その操作前に伊方南幹線1号線乙母線断路器で突発的故障が生じ、短絡、地絡を経て187kV2系統4回路すべてで保護回路、遮断機が解放したことが分かっています。これによって187kV4回路はすべて失われました。
伊方南幹線1号線乙母線断路器がなぜ故障したのかは現時点では不明で、メーカーで分析中とのことです。
筆者は、発電所とは全く規模が異なるものの、電位差60kV程度の直流高圧や小型、大型加速器を使ってきた経験がありますが、どのように注意していても地絡や短絡などによるインシデントは予兆なく起こるもので、「パチン」と鳴ると1発で1週間はパァになるために何度も泣かされました。
今回の場合、故障は確率的に生じるもので仕方ないのですが、点検のためとは言え、187kVの多重性をなくした結果、偶発故障から187kV全回路喪失、3号炉外部電源喪失とインシデントが連鎖、拡大したわけで、これは
典型的な連鎖によるインシデントの重大化と言えます。
勿論、定検中の特例操作の上でPWRのもつ高い固有安全性の範囲内で収束していますから、このインシデントそのものは外部を脅かすものではありません。しかし、WASH-1400(ラスムッセン報告)の結論の一つである、原子炉から遠く離れた、取るに足らない様に見えるインシデントが短時間で連鎖拡大し、原子炉を破壊に導く(炉心溶融に至る)可能性が有意にあるというイベントツリー解析の正当性を示す具体事例がまた一つ積み上がったと言えます。今回は、
定検という場において作られた普通はあり得ない脆弱な運用状態の中でそれが生じたと言えます。
原子力安全に関わるインシデントの実例という点ではたいへんに珍しく興味深い事例と言えます。
2020/01/25インシデントから得られる教訓は
2020/01/25インシデントは、たいへんに特殊な条件下で発生したもので、通常運用中の原子炉で発生する可能性はたいへんに低いです。また、インシデントの拡大はPWRのもつ冗長性の中で抑えられています。
しかし現状の運用体制のもとでは、3号炉の予備外部電源に1,2号炉への従属性が起因の脆弱性が見られ、安定した運転のためには脆弱性が認められます。
また、北電泊と四電伊方で共通に独自の対策として行われた*電源多重化についてもシビア・アクシデント(SA)対策であって、通常運用中の脆弱性を解消するものとは言いがたいです。
〈*その後の資料調査で、四電伊方でも北電泊同様に完了していた〉
次回は、比較的分かりにくい四電伊方と北電泊の外部電源、所内電源多重化と残存する脆弱性について論じます。
<文・写真/牧田寛>
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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