「産後ケア」より「家族ケア」。八王子の助産院が目指す、夫婦が一緒に子育てする社会。
「ともこさんち」が、2月下旬から日本初となる「温泉施設型産後ケア」をスタートする。
「ともこさんち」が八王子市と町田市にある2つの温泉施設に出張して子どもを預かり、産後の女性や家族にリラックスしてもらう。親が家庭から離れる時間を持ったり、ゆっくりと休めたりすることで育児ストレスが軽減し、夫婦仲の悪化や虐待の抑止に繋がる。
「ともこさんち」院長の青木智子さんに、温泉施設型産後ケアの内容や現在行われている産後ケアの課題について話を聞いた。
産後ケア事業とは、産後の一定期間にお母さんたちを休ませたり、育児の相談に乗ったりする目的で自治体が行う事業のこと。ケアの実施場所は助産院や病院が多いが、予算や人員確保、場所の問題などから、2018年時点で全国の自治体で実施したのは26%にとどまっている。
しかし加速する少子化や妊産婦の死因トップが「自殺」という現状から、産後ケアの推進は待ったなしの状況。これまでは自治体が必要性を感じた場合に任意で行うこととされていたが、昨年12月には母子保健法が改正。今年4月からは「努力義務」となった。未実施でも罰則はないが、産後ケアの必要性を自治体に訴える効果は見込める。
「ともこさんち」は助産院のスペースで産後ケアを行ってきたが、利用者のさらなる育児不安解消に繋げるため、今回の「温泉施設型産後ケア」をスタート。たとえば山梨県では、宿泊機能を備えた産後ケア専用施設があり、利用者は温泉に入ってリラックスできる。しかし都心でそのような施設を作るには用地確保が難しい。そこで食事や娯楽スペースを備えた既存の温泉施設と連携し、場所不足問題をクリアした。
「温泉施設型産後ケア」の概要はこうだ。ともこさんちは助産師数名を配置し、温泉施設内のスペースで子どもたちを預かる。その間利用者はお風呂や食事を楽しむだけでなく、助産師に子育てや夫婦関係の悩みを相談できる。育児は家庭内で行うため社会との繋がりが希薄となり、孤独を感じる人もいる。他の利用者や助産師とのコミュニケーションの場としても機能する。
実施頻度は、月に二度程度を見込む。初回実施予定日は1月28日だったが、当日首都圏では積雪のリスクがあったため中止。2月26日に延期予定だ。
料金は利用施設によって異なる。実施場所の一つ「八王子やすらぎの湯」では、基本料金は1時間半まで1500円。その後は30分毎に500円がかかる。
入浴場合は別途入浴料として税込み1518円(通常は2100円だが同サービス利用では割引)となっている。
青木院長は助産師として働く中で、産後ケアの現状に疑問を抱き続けてきた。
「産後ケアの対象はママと子ども、つまり母子が一般的です。病院勤務時代にも授乳やミルク指導など、ママ向けの内容ばかりでした。そうした状況の中で湧いてきたのが、じゃあお父さんはどうなの?という疑問でした。
以前よりは状況は変わったとはいえ、ママは子育てのため家庭に入り、パパは仕事という考えは未だに根強い。育児で悩んでも向き合うのはママが多い印象です。
本来、育児は夫婦が協力して行うのが自然だと私は思っています。パパとママがお互いを思いやり、子育てにどう取り組んでいくかを話し合う。私が理想とするのは、ママだけではなくご夫婦や同居される家族にまで対象を広げたケアなのです」
お互いを愛し合って結婚したはずの男女が、子育てを通じて不仲になる。これは産後クライシスといい、離婚に至るケースもある。子どもの成長に応じてタスクも疑問も変わる中、夫婦の協力体制が築けずどちらかに負担が偏った状態が続けば関係は簡単に冷え切ってしまう。
東京都八王子市にある助産院助産師が子どもを預かり、親はお風呂や食事をしてリラックスできる
母子ケアに違和感。夫は蚊帳の外なの?
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