伊方原発3号炉のインシデント軽視は、この先どのようなリスクを拡大することになるのか?

SFP内での燃料集合体の衝突や落下で何が起きるのか

 燃料集合体は、今回の場合二酸化ウラン燃料ペレットをジルカロイ(ジルコニウム合金)の被覆管に320個詰めヘリウムで封止し、それを17×17の配置で264本束ねたものです。足りない分は、制御棒案内管や計装管に使われています。長さは4m近くあり質量は680kgあります。支持格子はインコネル合金製です。BWRと異なり、チャンネルボックスはありません。  インコネル(インコ社の商標)は、ステンレスの一種でニッケルを主とした鉄、クロム、モリブデン等の合金で、耐食性にたいへん優れます。ジルカロイは、高価ですが中性子を吸収しにくいために軽水炉の炉心に使われます。かつては、被覆管を含めてステンレスだったのですが、軽水炉の炉心では中性子は貴重な資源ですので浪費しないように第2世代炉(現在のPWRやBWRなど1960年代から主流の原子炉)ではジルカロイに切り替えられました。
伊方3号炉の燃料ピットと燃料集合体

伊方3号炉の燃料ピットと燃料集合体
水が青く光るのは使用済み核燃料からの放射線によるチェレンコフ光
伊方発電所でのトラブルに関するご説明2020/01/28四国電力より

 伊方3号炉は、燃料集合体が157体装荷されますので、燃料棒の本数は4万1448本、ペレットの数は1326万3360個となります。ペレットは、核分裂による中性子照射、熱サイクル、核分裂生成物質(FP)の発生によって損傷し、内部に気体FPなどが発生するために被覆管の内圧は上昇します。これだけたくさんの構成部品に一切の欠陥が認められませんので核燃料の品質管理は、工業の最高水準と言えます。  燃料集合体1体には、燃料棒が264本、ペレットが8万4480個存在します。これらが破損すると外部に強い放射能を持つFPが漏洩します。従って、燃料集合体には、余計な応力などをかけて破損させてはいけません。  燃料集合体の落下は、水中であっても大きな衝撃を燃料棒とペレットに加えますので、ペレットの破損や、被覆管の損傷、ピンホールなどが生じ、強い放射能がSFPに放出される可能性があります。最悪の場合、クリプトンなどの気体放射性物質はフロア内を汚染しますので作業員の被曝に繋がります。基本的に建屋内は負圧ですので、電源喪失などが無ければ外部に放射能は出ませんが、インシデントとしては重大なものとなります。  今回は、目視検査の結果燃料集合体には異常なしとのことですので、おそらくゆっくりと乗り上げたものと考えられます。  繰り返しになりますが、今回は実際に燃料集合体が落下したわけでは無く、落下警報は誤報です。

被覆管に穴を開けたらいけない

 燃料集合体の被覆管は、厚み0.5~0.6mm程度、直径9〜10m程度で長さが4m程あります。この中に320個の核燃料ペレットがはいり、ヘリウムを充填されています。  既述のように、核燃料ペレットは使用によって損傷が進み、内部のFPを封止する能力は下がりますので、被覆管でFPが外部へ漏出することを防ぎます。  この被覆管にピンホールがあくと、気体放射性物質などが外部へ漏出することとなりますが、それによって内部が減圧すると、内部に水が浸入します。内部に水が浸入すると浸水燃料(しんすいねんりょう)となり、これが原子力安全に極めて重大な問題を生じます。  現在商業用軽水炉で用いられる核燃料は、酸化物核燃料ですが、これは非常に頑丈で、被覆管で封止されている限り、制御棒の一挙全抜を起こしても燃料が一挙に崩壊することはありません。  研究炉で良く用いられる金属板状燃料の場合、反応度事故が起きると燃料板の融着や表面で水の爆発的な気化を起こし衝撃圧力やウォーターハンマーなどによって原子炉は崩壊します。この典型例が1961年1月3日に合衆国で生じたSL-1実験炉暴走事故*で、原子炉は爆発して原子炉蓋を上に跳ね上げ、そのまま蓋が元の位置へだるま落としのように正確に戻ったために当初は何が起きたかは分かりませんでした。保温用アルミフォイルが蓋フランジの下に巻き込まれていたことと、作業員が天井に突き刺さっていたことから原子炉蓋が跳び上がり、元の場所に戻ったことが分かりました。 〈*極めて有名な原子炉反応度事故(暴走事故)で、チェルノブイル核災害までは反応度事故としてSL-1事故が例示された。小型実験炉の点検中に運転員が主制御棒を手で全抜し、原子炉が暴走して爆発した。一部では、失恋した運転員が自殺したなどと言う痴話にされているが、この事故は、第2世代原子炉の設計と原子力安全に重要な役割を果たしている。合衆国はこの事故の解明のために実際に原子炉を暴走させる実験を行っている〉
反応度事故で完全に破壊されたSL-1炉心

反応度事故で完全に破壊されたSL-1炉心 事故発生は、1961/01/03
事故に巻き込まれた3人の職員の体は、顔や手足などの露出部については放射能汚染が余りにも深刻なために切断の上で放射性廃棄物と同等に隔離埋設された。
主制御棒の人為的全抜が原因の急激な反応度付加により水蒸気爆発とウォーターハンマーによる原子炉上蓋の飛び上がりが生じた
photo via Wikimedia Commons (Public Domain)

BORAXIIによる反応度事故再現実験

BORAXIIによる反応度事故再現実験
あくまで超高速度カメラによって過剰な反応度により原子炉の中で何が起きるかを撮影するための開放型小型原子炉での実験である。実験後、炉心はSL-1と同様にバラバラになっていた。
YouTubeに当時の実験記録映像がある
THE STORY OF THE. BORAX NUCLEAR REACTOR. And the EBR-I Meltdown, 2008/02, Ray Haroldsenより

 その後BORAX(BOiling water ReActor eXperiment)*の一貫である再現実験で実際に原子炉に過剰な反応度を与え暴走、崩壊させることにより、SL-1事故は解明され、現在の軽水炉開発に反映されています。これらに加え、日本の原子炉安全性研究炉(Nuclear Safety Research Reactor; NSRR)の寄与もあり、商用軽水炉における酸化物焼結体燃料の場合、反応度事故に対する耐性は極めて高く、仮に反応度事故を起こしてもBORAXやSL-1のように原子炉炉心が一挙に崩壊することは無いと分かっています。 〈**PWRと異なりBWRには、原理的に反応度事故における受動安全性の欠如が懸念され、実用化に先立ってBORAXによる安全性の確認が行われた。結果、BORAXにより懸念は払拭されBWRは実用化された。原子力工学は、徹底した実証主義の学問であると言われる実例の一つである〉  しかし、被覆管にピンホールがあいた浸水燃料の場合は、反応度事故が生じた場合、ペレット表面近傍で水の爆発的気化が起こり、ペレットは砕け、被覆管が破裂し、更に水の爆発的気化によって燃料棒が破壊されます。この場合も浸水燃料が少数ならば原子炉が長期運転不能になる以外、外界への影響は原理的にはバウンダリ(閉じ込め機能)によって阻止されます。  核燃料被覆管が、第二の放射能バウンダリであることはよく知られており、本質をよく理解していない人たちは、「燃料棒にピンホールがあいても放射能は外に出ないから問題ない。騒ぐ奴は情弱。」という暴言を流布しますが、ピンホールがあいた核燃料は、浸水燃料となり、これは反応度事故が生じたときに原子炉炉心に甚大な破壊を生じる恐れがあります。
完全浸水燃料の破壊例(NSRRによる)

完全浸水燃料の破壊例(NSRRによる)
被覆管は、比較的低温で破裂し、燃料は粉々になって冷却水中へ飛び散った。これは大事故の引き金となり得る
738.軽水動力炉の反応度事故条件下における 浸水燃料の破損挙動 大西信秋,落合政昭,石 島清見,丹沢貞光, p289-300日本原子力学会誌 Vol. 24, No. 4 (1982)

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