障害を持つヒロインの成長を描く。『37セカンズ』HIKARI監督に聞く<映画を通して「社会」を切り取る9>

主演の佳山明さんとの出会い

――主演を佳山明(めい)さんに決めてから脚本を書き直したとのことでした。 HIKARI:佳山明さんも出生時に脳性まひになり車椅子の生活をしている女性で、オーディションで出会った当時は福祉の大学を卒業したばかりの23歳でした。 HIKARI監督 自分が用意していたストーリーは、性と主人公の社会での立ち位置にフォーカスしたものだったのですが、明さんのピュアでおぼこい感じ、何も知らない、生まれたての卵のような気質に合っていなかったんですね。明さんの気質を映画に活かしたかったので、明さんにもヒアリングして脚本を書き直しました。 ――劇中では入浴シーンなど障害者の方々の生活がリアルに描かれていますね。 HIKARI:障害者の方々の生活については、熊篠さんはもちろん、いろんな人たちに聞きました。寝る時間も食べる時間も排泄の仕方も、生活スタイルはみんな違うんですね。  明さんにも、もちろん明さんのスタイルがありました。なので、明さんがお風呂に入るのを手伝ったり、介助師の方の様子を見て脚本の中に取り入れていきました。明さんとは一緒に映画にも行って共に多くの時間を過ごしましたね。 ――明さんとはどのようにして出会ったのでしょうか? HIKARI:スタッフで力を合わせてみつけました。「車椅子に乗っている女性募集」として、日本全国の会社や団体にFacebookも使いながらオーディションの告知をしました。1000件ぐらい当たりましたね。最終的に約50人の女性にオーディションに来ていただき、最後2名まで絞って明さんに決めました。  最初のシーンを2つ3つやってみて、明さんだと思いました。彼女の持つ初々しさが、恋愛をしたことがないという映画の設定にぴったりだったんです。

演技ではなく「導く」演出を

――明さんは演技初挑戦とのことでしたが、演技指導はどのようにされたのでしょうか? HIKARI:明さんにはいかにユマになってもらうか、彼女の生活に入っていけるか、ということに注力してもらいました。”Acting is reacting.” という言葉がありますが、演技「指導」ではなく導くようにしました。演技は日本語で書くと「演じる技」と書きますが、自分はそういうやり方が苦手だったので。  明らかに演技とわかるところはカットし、違うと思ったところは本人が分からなくなるぐらいまで撮り直しました。  明さんはすべてが初めてだったので、こちらが何か言った時の彼女のリアクションも「ドッキリ」みたいで良かったですね。周りが素晴らしい役者さんたちだったので、彼女も周りを見ながら学んでいきました。
(C)37 Seconds filmpartners

(C)37 Seconds filmpartners

――劇中では明さん演じるユマがどんどん輝いて美しくなっていきますね。 HIKARI:ストーリーの順番で撮影しましたが、その中でユマを演じる明さん自身が成長しているのが分かりました。その成長を描きたかったんですね。23歳の女の子が自分のやりたいことをみつけてどんどん大人になっていく。それは障害者かどうかとは関係なく起こることですよね。 ――ベテランの方々が脇を固めています。 HIKARI:障害者を中心にサービスを行うデリヘル嬢の舞は、ユマの人生の先輩的な面もありますが、オーディションをやってもイメージに合う人はいませんでした。そういうこともあって、渡辺真起子さんは会ってみたいと思って友人の紹介で一緒にご飯を食べに行ったんですね。そこでぴったりだと思ってお願いしました。  ユマのお母さんの恭子役の神野三鈴さんは、プロデューサーの山口晋が元々一緒にお仕事をしていたんです。たまたま会社にいらしていて、スタッフと話す姿を見たのですが、遠くから見て恭子役に合いそうだな、と思って。その後お会いして、お話をして決めた感じです。  ユマの介護福祉士・俊哉役の大東駿介さんは食事会で知り合ってオーディションに来ていただきました。人との縁でこれだけの人たちが集まったんです。 ※後編では、ベルリン国際映画祭での受賞がきっかけで大手エージェントに所属するHIKARIさんに、アメリカでの映画作りや本作に込めたメッセージ、これから挑戦してみたいことなどについてお話を聞きます。 <取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
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監督・脚本:HIKARI
出演: 佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏  
2019年/日本/115分/原題:37 Seconds/PG-12/配給:エレファントハウス、ラビットハウス/ (C)37 Seconds filmpartners
挿入歌:「N.E.O.」CHAI <Sony Music Entertainment (Japan) Inc.>
2020年2月7日、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー