彼はもともと、ラオスで海外留学奨学金を申請したときは「KOREA」、すなわち韓国に行くものと思っていた。平壌に初めて到着したとき、当然ながら彼はひどく衝撃を受けた。
彼の部屋の窓からは金日成総合大学2号校舎の上に大きな文字で設置された「偉大なる金日成同志と金正日同志は永遠に我々と共におわす」というスローガンが見えた。
ある日の夜、彼は窓の外でスローガンが赤く光るなか、『ランニングマン』という韓国の恋愛番組を観ていた。それは、奇妙な不調和の象徴のようなショットだった。私は、彼が赤いネオンが差し込む部屋でそんなものを見ながら、何を思っているのか常に気になっていた。
長期に渡り学位課程を取る「留学生」を除く在北留学生を「実習生」と呼ぶが、いわば交換留学生である。
我々が最もよく知っていた実習生は毎年、中国政府の海外留学奨学金を通じて、金日成総合大学に2学期のみ留学する、25名の団体であった(金亨稷師範大学にもいる)。
中国で韓国語を専攻する学生の傾向として、2018年の実習生も25人中1人以外はすべて女性だった。
彼女たちは前回紹介した「95%の留学生」とは明らかに違っていた。彼女たちはそれほど裕福な家庭の出身ではなかったが、勉強熱心で北京外国語大学など中国の名門大学の韓国語学部の学生たちだった。
彼女たちはほとんどの場合、平壌で4〜5年暮らしてきた本科生よりも朝鮮語が上手かっただけでなく、知的でさっぱりした性格をしていた。
中国政府の奨学金を受けてきた実習生たちは学費、宿舎、寄宿舎での食事が無料となるが、想像しがたいが中国政府からもらう数百元のほかにも追加で毎月お金をもらっている。
外国人のお金をつねに巻き上げようとする北朝鮮政府から、毎月40USドルをもらっているのだ!(次回に続く)。
<文/アレック・シグリー>
Alek Sigley。オーストラリア国立大学アジア太平洋学科卒業。2012年に初めて北朝鮮を訪問。2016年にソウルに語学留学後、2018~2019年に金日成総合大学・文学大学博士院留学生として北朝鮮の現代文学を研究。2019年6月25日、北朝鮮当局に拘束され、同7月4日に国外追放される。『僕のヒーローアカデミア』など日本のアニメを好む。Twitter:
@AlekSigley