理由3:笑えてしかもアツくなれる! オープニングとクライマックスが必見の理由とは?
本作はコメディとして大いに笑えるということも、強く訴えておかなければならない。
その笑える理由は、前述してきたように「バカバカしいとも思えることに全力投球する」過程だ。例えば、『マジンガーZ』は昔のアニメということもあり、回によっては地下格納庫の作画に矛盾が生じていたり、設定に“ゆるい”ところがあったりもする。それらに対するチームメンバーのツッコミは「確かにそうだ!」と納得するばかりで、どうしても笑ってしまう。
しかし、やがて彼らは「この矛盾を解消してみせる!」「ファンが納得できるものを届ける!」とやはり情熱を燃やしていく。クスクスと笑っていたコメディ要素が、やがて情熱へと転換していく様は、笑いとアツさが同居していて、やはりワクワクが止まらないのだ。
(c)前田建設/Team F (c)ダイナミック企画・東映アニメーション
さらに、上地雄輔や岸井ゆきのなどの元々コメディセンスがある俳優たちも、オーバーな演技や表情という良い意味での安い笑いを提供してくるからずるい。正直に言ってキャストたちが騒ぎすぎてさすがにうるさい、天丼(繰り返し)ギャグが少々しつこく感じたところもあるが、そのうるささやしつこさも含めて楽しんでしまうのが良いだろう。
なお、監督はマンガ原作のコメディ主体の映画を数多く手がけてきた英勉(はなぶさつとむ)氏だ。良くも悪くもケレン味のある“大げさ”な演出をされる作家で、『ハンサム★スーツ』(2008年)や『貞子3D2』(2013年)などでは、その内容に「……」と無言になることもあった(これらの映画が好きな方には申し訳ない)のだが、今回はその大げさな作家性こそが最大限に物語とマッチしていると言っていいだろう。
何しろ、オープニングから無駄に壮大だ。この“無駄に”も、もちろんとても良い意味でだ。英勉監督によると、あの『アベンジャーズ』も意識していたのだそうで、ドローンも駆使し、オフィスも駆け抜けたりする画は躍動感に満ち満ちている。これから起こりうる「小さいスケールだけど壮大に思える(実際に壮大)」な内容を端的に表した、笑えると同時に心の底からワクワクできる素晴らしいオープニングだ。
(c)前田建設/Team F (c)ダイナミック企画・東映アニメーション
さらに、抱腹絶倒なのはクライマックスだ。何が起こるかはネタバレにならないので書かないでおくが、主演の高杉真宙の表情とリアクションがいちいちおかしくって仕方がない。ここは賛否両論も呼ぶかもしれないが、本作の”笑えるバカバカしさ”と“情熱に満ち満ちたアツさ”の同居という魅力が最大限に表れた、作中屈指の名場面だと筆者は全肯定したい。
おまけ:『空想科学読本』の“アンサー”と呼ぶべき?
『空想科学読本』という書籍をご存知だろうか。1996年に第1弾が発表され、シリーズ化もされたベストセラーであり、マンガやアニメや特撮のSF設定を科学的に面白おかしく検証した作品だ。
その『空想科学読本』は新聞広告のコピーにあった通り「子供の夢を壊す本!」でもあった。子供はもちろん大人だって愛してやまないSFやヒーローの設定について様々なツッコミを入れて、「現実では不可能だ」ということを突きつけてくる、人によっては野暮とも言ってもいい内容になっているのだから。しかし、その野暮も含めて、ジョークとして大いに笑って楽しめるのが『空想科学読本』だった。
その「現実ではできない」ことに科学的なツッコミを入れまくることが主体であった『空想科学読本』に対し、『前田建設ファンタジー営業部』は「こうすれば実現可能」というソリューションも提示する(しかし実際には作らない)。筆者にとって、子供の頃に大笑いしながら読んでいた(しかし良い意味で夢をぶち壊された)『空想科学読本』と同様の面白さがありながらも、そのアンチテーゼ、もしくは“アンサー”と言えるのが『前田建設ファンタジー営業部』だったのだ。
言うまでもないことだが、『空想科学読本』が子供の夢を壊すからダメ、『前田建設ファンタジー営業部』のほうが夢を真剣なプロジェクトとして扱うから素晴らしい、ということではない。どちらも「ファンタジー(SF)を大人が真剣に検証する」ということを楽しむ、取り扱った作品に対しての愛情も存分に感じられる、娯楽として誠実かつとても面白いものなのだ。
ぜひ、『空想科学読本』が好きであった方はこの映画『前田建設ファンタジー営業部』を観てほしいし、この映画が気に入った人は『空想科学読本』も読んでほしい。架空の創作物へ“本気”になる大人たちの情熱は、笑えると同時に、現実でも仕事を頑張れる活力を与えてくれるのだから。
<文/ヒナタカ>