――鈴木さんは生長の家を信仰する家庭に育ち、高校時代に同じ年のテロリスト、山口二矢の生き方に衝撃を受け、大学に入学してからは政治運動に身を投じます。
中村:鈴木さんは早稲田大学に入学後は生学連(生長の家学生会全国総連合)の書記長となり、右翼学生として学内の左翼学生と殴り合いを含めた政治闘争をするんですね。そして大学院へ進み、全国学協(全国学生自治体連絡協議会)を結成し、初代委員長に就任しますが、反対勢力と対立しわずか1ヶ月で退任させられてしまいます。その反対勢力の人たちが後の日本会議を結成します。
本当に数奇な運命だと思います。あのまま全国学協にいたら日本会議にいたかもしれません。ちなみに、今回、当時からいる保守の人たちに取材を申し込みましたが「対談相手として不適切である」などの理由で断られてしまいました。
――鈴木さんは現在、右も左もなく様々な価値観を持つ人たちの意見に耳を傾けています。
中村:今の保守の人たちの考え方と違って、鈴木さんは自分の国だけを愛するという「愛国」ではなく、もう少し人類愛的な「愛国」の精神があるのではないかと思います。
17歳で当時の社会党委員長だった浅沼稲次郎を殺害し自らも少年鑑別所で命を絶った山口二矢、三島由紀夫と共に自決した森田必勝、出版物の内容に抗議して朝日新聞本社で自決した野村秋介、鈴木さんが憧れている人は政治的な殉教者ばかりです。映画の中にもあるように、毎年、必ず森田必勝の墓参りに行っています。
現在の保守の人たちは、「愛国心」の名の元に本当は自分の地位や家族、仲間を守ろうとしているだけ、自分がかわいいだけなのではないか、と鈴木さんは言っていますが、彼らにはそうした私心がなくこの世を去って行ったことが鈴木さんを惹きつけるのかもしれません。
――鈴木さんは女性に人気がありますね。「男は面子と沽券が大事でそれが満たされないからパワハラをする。でも鈴木さんにはそれが全くない」と雨宮処凛さんがおっしゃっていましたが、その通りだと思います。
中村:あれぐらいの年齢の男性(鈴木さんは1943年生まれ)は大概の人が威張りますよね。「俺はこんなにすごいんだぞ」と。人の話は聞かないで自分の話ばかりしている人もいます。
でも、 鈴木さんはその逆なんですね。「どうしていつも本を読んで勉強しているんですか?」と聞くと「自分がバカだからです」と答えるんですよ。
女性にもモテると思います。女性たちは威張るおじさんたちにうんざりしていますが、邦男さんといると癒されます。私もそう感じていますし、邦男さんの周りにいる女性たちは皆そう言っていますね。
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――かつて殴り合いの政治闘争をしていた鈴木さんがなぜ今、物腰の柔らかい人物になったのでしょうか。
中村:かつては怖い人だったと聞いています。なぜいわゆる「右翼」を止めたのか、そして、物腰柔らかい人になったのか。それは私も撮影を続ける中で考えていましたが、鈴木さん自身が「これが正しい」と信じ込んでやってきた政治運動が途中で挫折してしまったからではないかと思っています。
鈴木さんは「自分自身が正しいと思い込んで自滅した人がたくさんいた」とよく言っていました。他の人を蹴落とそうとして起こった内ゲバなどにうんざりしたようです。
自分が正しいと思って来たことは果たして正しかったのかと。そう振り返ったところから偉ぶれなくなったのではないかと思っています。自分が正しいと信じていないと偉ぶることはできませんが、鈴木さんは常に自分を間違っているのではないかと疑っています。