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「
デジタル・シルクロード」と聞いてもピンと来ない人も多いだろう。
デジタル・シルクロードの全体像についてまとめたレポートは世界でもほとんどないそうだ。その数少ないレポートのひとつ『
Issues & Insights Vol. 19, WP8 – China’s Digital Silk Road: Strategic Technological Competition and Exporting Political Illiberalism』(2019年8月1日、Pacific Forum)にそう書いてあった。しかし、断片的な情報はたくさん存在し、それぞれ深刻な問題として取り上げられている。
デジタル・シルクロードとは、
中国が世界で繰り広げている一帯一路(BRI)に含まれるネットの普及と活用に関する活動である。日本では、一帯一路もそれほど話題になっていないので、やはりピンと来ないかもしれない。しかし、一帯一路の経済成長がめざましく、すでにアメリカやヨーロッパを圧倒していることを知れば無関心ではいられないだろう。そして一帯一路参加国の多いアフリカは2025年には世界人口の半分を占めると予測されている。なお、一帯一路はアジアとアフリカが基本だが、ヨーロッパ、ラテンアメリカにも触手を伸ばしている(というよりラテンアメリカのいくつかの国は参加したがっている)。
一帯一路と選択された地域の経済規模比較。図版内用語詳細は引用元参照
出典/OECD発表資料
最初に説明しておきたいのは、2017年に中国で成立した
国家情報法である。ひらたく言うと、この法律は中国の組織ならびに個人は中国政府の要請に応じてあらゆる情報を提供しなければならないというものだ。これに従えばデジタル・シルクロードで世界に広がっている中国企業が保有している光ケーブル、海底ケーブル、測位衛星、5Gネットワーク、e-commerce、データセンターなどの情報は中国政府が要請すれば入手できることになる。
一帯一路は世界を席巻しつつあり、デジタル・シルクロードは世界の情報通信のあり方を変えようとしている。『
China’s Digital Silk Road: A Game Changer for Asian Economies』(2019年4月30日、THE DIPLOMAT)によれば、
中国は125の国と29の国際機関との間で173の契約を締結した。
断片的だが、日本ではあまり知られていないことをご紹介しよう。
スマホやナビゲーションシステムに装備されているGPSは測位衛星から送られてくる電波を利用するGNSS(衛星測位システム)の一つだが、その
測位衛星をもっとも多く保有しているのは中国だ。そしてアメリカの測位衛星(GPS)と異なり、データ量は限られるが双方向の通信が可能となっている。中国の衛星測位システムは
北斗衛星導航系統(BeiDou、BeiDou2、北斗衛星測位システム)と呼ばれる。この影響はスマホだけに留まらず、自動車や船舶などのナビゲーションシステム、ドローンなどにも及ぶ。
情報通信の90%以上を支える大陸間を結ぶ
海底ケーブルの多くはアメリカおよび関連国の企業によるものだが、近年は中国企業とグーグルおよびフェイスブックの比率が目立って増えている(参照:
『「ネットの海の道」地球30周分 米中しのぎ削る』2018年10月29日、日経新聞)。中国が関係しているものではアジアとアフリカを結ぶ
PEACE(Pakistan & East Africa Connecting Europe)が有名だ。
そして、そのケーブルから中国が情報を傍受するのではないかという懸念もある(参照:
『China’s Next Naval Target Is the Internet’s Underwater Cables』2019年4月19日、Bloomberg)。前述の国家情報法がある以上、当然の懸念と言える。
AI監視システム市場は中国企業の寡占状態であり、SNSはフェイスブックグループと中国企業の寡占状態となっている。デジタル・シルクロードは莫大なデータを中国にもたらす。監視カメラ映像、ケーブルを通るデータ通信、SNSなどだ。それらをより早くより効果的に処理するためにはAIが必須となる。そのためのシステムを中国は提供している。
統計ポータルstatistaによる。
オリジナルデータは『We Are Social; Various sources (Company data)』 Hootsuiteより
『The Global Expansion of AI Surveillance』(Carnegie Endowment for International Peaceより作成)
次世代の
通信技術5Gに関してはHUAWEIが世界市場のトップを走っており、中国企業が関連特許の36%を握っている。アメリカが安全保障上の問題として警戒を強めているのも当然である。