四国電力伊方発電所3号炉は、去る12月26日より来る4月27日までの長めの4ヶ月間の定検ですので、本仮処分決定は、直ちに影響はありません。
また定検期間は、去る2020年1月13日に発生した重大インシデントである制御棒クラスタ引抜インシデント*によって1カ月前後延長される事が予想されます。
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規制委員長「前例なし」 異例のトラブルと強調2020/01/15愛媛新聞、
制御棒を誤って引き抜き 伊方原発センサー反応せず20/01/13 ANN〉
山口地裁岩国支部での本訴は、現時点で2019/10/17に第5回口頭弁論期日でしたので、判決までには相当の長期間を要すると見込まれます。従って四国電力による保全異議を申し立てられることになります
この保全異議申し立てが実質的な最終判断となり、保全異議の決定に対しては、憲法違反などの場合を除いて不服申立てを行うことができません*。最高裁は、事実認定をする場ではありませんので、憲法判断が関わる場合を除き原則として仮処分申し立ては高裁でおわりとなります。
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仮差押え・仮処分に関する不服申立手続について 即時抗告・保全異議・保全抗告とは2017/12/18関口法律事務所〉
過去の仮処分は、同様な電力側による異議申し立ての場合、10ヶ月程度で判断が出ていますので四国電力による異議申し立ては、年内に判断が出ると思われます。ここで異議が却下されれば差し止め仮処分は確定し、本訴判決が降りるまで相当な期間、伊方発電所3号炉は運転できません。
それでは仮に四国電力による異議申し立てが認められ、仮処分が棄却された場合はどうなるでしょうか。この場合、その後1月程度の準備期間をおいて伊方3号炉は運転開始できます。良く勘違いされていますが、停止中の原子炉は、運転準備に2週間から1月程度の時間を要します。また運転準備しながら見込み違いで運転できなくなると大きな額のお金を無駄にします。
仮に10月に運転開始した場合、2021年11月まで運転できる事になりますが、実際にはそうではありません。2021年3月には原子力規制委員会から停止命令が出て、その後1年以上(1〜2年程度)のあいだ、運転ができません。
これは四国電力の見込みの誤りによる特定重大事故等対処施設(特重施設)建設大幅遅延によるもので、四国電力の責に帰するものです。
伊方発電所ですすめられる特重工事2019/07/15撮影 牧田
3号炉(中央)左側の非常用ガスタービン発電機建屋は、建物自体については出来上がっている。
手前のクレーンが並ぶ箇所は特重施設工事箇所で2019年9月6日に鉄筋11本の20m落下インシデントを起こしている*。おそらく第二制御室の建設が進められているのでは無いかと考えられるが、対テロ機能を担う割に外部から丸見えで携行用対戦車ミサイルの射程内である
*伊方発電所における工事用の鉄筋落下について2019/09 四国電力
2015年の九州電力川内原子力発電所に始まり、現在稼働中の原子力発電所はすべて特重施設の建設が再稼働に間に合わないために例外的に5年の猶予期間を原子力規制委員会より与えられています。この猶予期間までに特重施設建設が終わらない場合、猶予は取り消され、運転停止命令が出されます。
伊方発電所の場合、2016年3月23日に伊方発電所3号炉の新規制基準への適合性に係る工事計画認可がでており、期限は2021年3月22日となっています*。この期限内に特重施設が完成していない場合、即日運転停止命令が出る事が原子力規制委員会より表明されています。このことを巡っては、もともと工事が間に合わない事がわかっていた電力業界や経団連が盛んにさらなる猶予を原子力規制委員会に求めていましたが、昨年4月24日に原子力規制委員会が、さらなる猶予は認めないと決定しました**。
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伊方発電所3号機の新規制基準への適合性に係る 工事計画認可について2016/03/23四国電力〉
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テロ対策施設、未完成なら原発停止 再稼働原発の停止も2019/04/24朝日新聞〉
結果として現在稼働中の原子力発電所はすべて、5年の猶予期間切れで順次停止し、電力会社の発表では1〜3年、おそらく2〜5年程度の運転停止に追い込まれます。
伊方発電所3号炉の場合、2021年3月22日を持って運転停止となりますので、実は計画通り4月27日に定検終了、運転開始しても運転期間は本来の13ヶ月でなく11ヶ月足らずで停止となり、この運転周期の設備利用率は17%も損なわれます。
実際には、今回の仮処分決定によって早くとも運転開始は2020年11月頃、運転停止が2021年3月22日ですから30%足らずのきわめて低い設備利用率となります。更に運転期間は電力需要のあまり多くない期間となりますので、経済的にも運転を行う意味があまりないという事になります。
伊方3号炉は、2016年8月の操業再開から特重期限切れに伴う運転停止あけまでの6〜7年間の設備利用率が40%前後と著しく低迷します。2011年から2020年までの10年間設備利用率は30%足らずとなります。1994年12月15日の運開から2020年末まで26年間の設備利用率は、60%前後と予想されます。その後2021年3月からの猶予期間切れによる運転停止を含めると1994年12月から2034年末まで40年間の平均設備利用率は、最善でも65%前後になると予想されます。これはきわめて悪い数値です。
合衆国などの事例をみれば、生涯設備利用率が60%を割り込む原子力発電所は経済性を失い、廃止となる可能性が高くなります。福島核災害後の日本の場合、原子力発電所は数千億円という当該原子炉の建設費を上回る規模の投資を要していますので、経済性獲得のための最低設備利用率はずっと高い数値が求められます。
福島核災害前までは、比較的運転成績の良かった伊方3号炉ですら投資額の巨額化と生涯設備利用率の低迷によって経済性を喪失する可能性が高いことはたいへんに深刻です。
福島核災害後に莫大な投資を行う事によってたいへんに高コストとなっている日本の原子力発電所は、環境の激変によって産業施設としての経済的合理性を喪失していると思われます。
漫然と従来の手法を踏襲する事によって環境の変化に対応できず、破滅的失敗をする事は日本の組織にきわめて特徴的な事で、これは『
失敗の本質 日本軍の組織論的研究』*において厳しく指摘されてきた事であって、日本の企業経営者の常識です。
〈*『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』, 1984/05/01 戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎 ダイヤモンド社(文庫版は中公文庫):日本軍は、過度の環境適応によって、官僚的組織原理と属人的ネットワークで意思決定と行動する事に固定化していた。このため新たな学習と変化した環境への適応をする能力が著しく欠落し、自己革新と合理性の追求ができなかったために破滅したと結論している〉
この極めて常識的な失敗を繰り返しつつある電力会社が、日本社会に抱きつき心中をしている、かつての日本軍と同じ愚行が進行しています。
本稿では次回から、詳細について論じてゆきます。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』伊方発電所3号炉運転差し止め仮処分決定について 1
<文/牧田寛>
Twitter ID:
@BB45_Colorado
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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