彼らの両親は、いずれは彼らに北朝鮮でのビジネスを継がせたいと思っている。しかしそんな両親の思いとは裏腹に、彼らが学んでいる様子はない。もちろん、20代前半の学生はまだ幼く、多くを批判することはできない。
だが、彼らの多くは教授に賄賂を贈ることで単位を取得する。賄賂を贈れば贈るほど良い成績――満5点まで獲得できる。私はこの慣例に参加しなかったため詳しくないが、とある中国人留学生は教授に200USドルを贈ったと聞いたこともある。さらに、とある朝鮮語本科専攻4年生などは「あなたの名前は何か?」などといった簡単な朝鮮語の質問にすら答えられなかった。
教授によると、こうした状況は、90年代半ばのいわゆる「苦難の行軍」(経済崩壊と飢饉)の後に生じたという。読者もすでに知っているように、当時は北朝鮮の経済的混乱に乗じて不正・腐敗と賄賂が横行し、教育分野でも同様の現象が起きた。
以降、北朝鮮に留学を希望する中国人も減ったであろうし、北に強制的に来た中国人留学生たちの中にも、賄賂を取り交わす習慣ができた。私は賄賂を拒絶する教授が一人いると聞いたことがあるが、ほとんどは習慣的に受けるという。賄賂を受け取らない教授は留学生の不平の対象となった。
私はそのような行為にもちろん賛成しないが、教授を責めることもできないと思っている。彼らは他にお金を稼ぐ方法がない。ともかく、学生がお金を持ってくるのである。留学生の”班長”(決して民主主義的な方法で任命されていない)に指名された、とある中国人留学生は、教授らのオフィスにエアコンをプレゼントした後、授業を半年ほど免除された。
当然、授業にも何の関心もなく、態度も悪い。友人のスウェーデン人はクラスで唯一、中国以外の留学生だったが、2〜3人の男子学生が特に目に余ったという。彼らは破れたジーンズにキラキラした高級ブランドのジャケットを羽織り、髪はK-POPグループのように銀色に染めていた。彼らは普段から授業に集中せず遊んでばかりいて、宿題をまったくしなかった。
ある日から教授が、宿題をしなかった学生を、教室の隅に立たせる処罰を導入した。しかし、中国人学生はすぐに他の中国人学生を雇って代わりに宿題をさせた。教授がこれを指摘すると、大声を上げて教授と口論をしただけでなく、小突いたりもしていた。
もちろん、その中国人留学生は、自分が気に入らなければ授業に出ない。日曜日に大同江ビールをしこたま飲んだ後、月曜日のすべての授業に出なかったりもした。そのためスウェーデンの友人は、しばしば一人で授業を受けた。
寮でも問題があった。彼らはインターネット室で喫煙し、韓国のモッパン(食事をする様子を配信する動画)やK-pop動画を見るときも、夏休みの日本旅行のスケジュールを論議しているときも、夜遅く酒パーティーをする時もうるさい。それは他の学生が寝つけないほどであった。
2018年、最初の学期に彼らはよく麻雀をしたが、夜中の1〜3時まで、まるで熾烈な喧嘩でもしているかのような騒ぎようだった。噂によると、一回に10000元(1400USDを超える)を賭けた学生もいるという。間もなく、寮は麻雀を禁止した。
またある日彼らは、他国の留学生とも喧嘩をしたが、他国の留学生が閉めた寮のドアを大勢でぶち破ったりもした。これについては、いずれまた語りたい。
当然、すべての中国人留学生がそうだというわけではなく、中には親切な人間もいた。しかし彼らの一部もまた、他の留学生を見くだし、北朝鮮への態度も同じだった。
我々はその類の学生と、我々を監視する同宿生(第二回参照)に挟まれて暮らさざるを得ず、こうした荒涼とした社会環境は時折、我々を疲弊させた。私は2、3人の比較的に心根が良い学生を除いて、中国人留学生とは深く付き合わなかった。中国以外の留学生、中国とロシアの実習生(短期留学生)とはよく交流した。それについては、次回に述べたいと思う。
<取材・文・写真/アレック・シグリー>
Alek Sigley。オーストラリア国立大学アジア太平洋学科卒業。2012年に初めて北朝鮮を訪問。2016年にソウルに語学留学後、2018~2019年に金日成総合大学・文学大学博士院留学生として北朝鮮の現代文学を研究。2019年6月25日、北朝鮮当局に拘束され、同7月4日に国外追放される。『僕のヒーローアカデミア』など日本のアニメを好む。Twitter:
@AlekSigley