サムットプラカン県のある寺の祭りは街中に出店が登場し、深夜まで騒音が続く
除夜の鐘を中止にしたり、時間を変えて行う寺院が増えていると、昨年12月に入って日本で報道があった。近隣住民の苦情に配慮してのことだが、果たしてどれだけの人が除夜の鐘を苦痛に思っているのか。ネットなどではたくさんの議論が交わされたようだが、結局中止を決めた寺院は予定通り中止したようである。
実は2018年10月ごろにもタイで似たようなことがあった。しかし、日本とタイでは対応がまったく違っていた。途中までは日本同様に、苦情に対して管轄の役所などが動いたものの、世間がそれを許さなかったのだ。
事の発端は、300年以上の歴史があるというバンコクの下町にある仏教寺院ワット・サイの鐘と読経の音がうるさいという、隣接する高層マンションから来たひとつの苦情だった。その地域を管轄する区役所に寄せられた苦情に対し、役所側は寺院に音量を抑えるように勧告し、寺院もいったんはそれに従った。
ところが、この事実が報道されるやいなや、世間の声がそれを許さなかった。タイは国民の94%ほどが仏教徒と言われ、敬虔な信者が多いという以上に、タイの文化に深く根づいている。そのため、寺院の鐘や読経を否定するとは何事かと怒りの声が多発したのだ。確かに伝統を守った行為であるので、それをうるさいとするのは正論とは言えない。
これによりバンコク都知事が寺院に謝罪する事態になり、逆に誰が苦情を出したのかとクレーマー捜しが始まってしまった。タイ警察も捜査を行うと明言する中、当のマンションでもほとんどの住民が寺院の音を気にしていないということが判明し、苦情を寄せたのはそのマンションの住民である白人女性だとわかった。そして、世間に動かされる感じで警察はそのマンションに暮らす外国人居住者の身元を調査することになった。すると、苦情を寄せたとされる白人女性とは別に、韓国で詐欺事件を起こして国外逃亡、国際指名手配中だった韓国人男性が潜伏していることが判明し、この男性が逮捕されるという騒動になったのだ。
タイ人からすれば「寺院の鐘や読経はタイの文化である」ということ、それから「住民の方があとから来たのだから、うるさければ出ていけばいい」という意見が飛び交った。ただうるさいと言う外国人の意見は悪質なクレームでしかない。確かに300年も続く寺院なのだから、住民の方、特に外国人はあとから来たことは明確なので、タイ人の意見がもっともだろう。