サムットプラカン県にある「インペリアル」内に2019年12月にオープンした「カカシ」
和食ブームから、「おいしい」の意味を知る、日本語を母国語としない人も少なくない。
しかし、東南アジアのタイでは「おいしい」をほとんどの国民が知っているものの、意味まで理解していない人も少なくない。というのも、タイにおいて「おいしい」は和食チェーン最大手ともいえるグループの名称だからだ。正確には「
オイシ」という社名で、タイ全土で和食店を展開し、コンビニなどで緑茶などを販売している。
タイでも和食ブームが到来してだいぶ経つが、それ以前からあった日本料理店の中でも「オイシ」はブッフェを中心にしたことで当たった。当時のタイ人は日本料理に関して知識がなかったので、なにを頼んでいいのかわからない人ばかりだった。写真つきメニューがあっても、未知の料理なので味まで想像できない。そこで一定額での食べ放題にすることで、とりあえずトライしてみることができるようになったという点で、「オイシ」のブッフェはタイでの和食ブームに大きく貢献した。
「オイシ」が全土的に知られるようになったのは緑茶のコンビニ販売開始からだ。ただ、日本人には大不評だった。というのは、緑茶なのに加糖だったのだ。よくわからずに買って、吐き出した日本人は数知れず。しかし、コーヒー文化も根づいていなかったタイでは茶は甘くして飲むものだったので、タイ人にはヒットした。
こうして、華僑の社長が経営する「オイシ」は、日本料理を中心にしながらもタイ人の舌にストライクする味つけや演出で今もタイの和食ブームを牽引している。たとえば、タイのすべての商業施設に最低1軒はあると言われるチェーンレストラン「
シャブシ」が大人気だ。しゃぶしゃぶと寿司の造語で、回転寿司のようにベルトコンベアで鍋の具材が回ってきて、寿司は別に用意されている台に客が自分で取りに行く。これもブッフェになっているので、連日家族連れや若者たちで賑わう。鍋はほぼタイスキと呼ばれるタイ料理に近いが、スシがあるだけでタイ人には日本料理店と認識されている。
「オイシ」グループの回転鍋と寿司のチェーン「シャブシ」
そんな「オイシ」グループは専門店も展開していて、現在はほとんど見なくなったが、ラーメン専門店もあったし、丼専門の「
カカシ」もある。
「カカシ」は2012年に始まり、現在はバンコクだけでも13店舗、タイ全土で展開している。いまはガパオ丼や定食ものもあるが、元々は牛丼を中心にしていたようだ。ただ、タイ人は牛に関しては田畑を耕す道具であったり、信仰上の理由からあまり食べない習慣があった。近年は食生活が変化し、牛肉の消費量が増えてきており、そんなこともあって成長を遂げているようだ。ちなみに、日本の牛丼チェーンもタイで営業している。有名な「吉野家」は1990年代に、前述したような背景もあって一度撤退していたものの、再び出店して人気を博している。
タイの「吉野家」は丼あたりの量が日本と比較してかなり少ない。しかし、味はほとんど同じと言っていい。一方、「カカシ」はタイ人をターゲットにした丼である。果たしてどんなものなのだろうか。ちょうど筆者が暮らす、バンコク郊外に新店舗ができたので、「カカシ」に行ってみた。