『フォードVSフェラーリ』の3つの魅力、男たちの関係性に萌え、サラリーマン“あるある”に共感する!

魅力その3:大迫力のレースシーンはぜひスクリーンで!当時の“空気”の再現がものすごい!

 本作を語る上で、やはり大迫力のレースシーンを外すわけにはいかないだろう。何しろ、映像技術が進歩して「なんでもCGで実現可能」とも言われてしまいそうな今、あえてほぼ全てに“本物”が使われているのだから。  撮影監督は、実際のレーシングカーにカメラを搭載し、観客にスピード感と、リアルなレースを“体験”してもらうことを心がけたそうだ。極めて地面に近い目線の、車の振動や重力までもを感じられる映像は、まさに“レーサーと同じ気分になれる”臨場感に満ちていた。加えて、撮影監督は特製のカメラ車両を利用し、レースと同じ正確なスピードで俳優たちの演技も映していったのだという。車がひっくり返るほどの大事故シーンも、言うまでもなくCGなしの本物の映像だ。  また、24時間耐久レースの“ル・マン”は現在も行われているものの、1966年当時のレーストラックは今とは全く異なっていたため、スタッフはとてつもなく大きな観客席と、レーストラックのセットをイチから作り直す必要があったのだそうだ。さらに技術者たちが集うピット、VIPやジャーナリスト用のボックス、果ては当時の広告や見物人が持つ旗などの何百ものアイテムを作り上げたというのだから恐れ入る。
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

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 しかもレースシーンだけでなく、フォード社の工場が舞台となる前半のシーンでも、築100年になる元スチール工場に、巨大な工場に見せるための組み立てラインやベルトコンベアを設置し、組み立ての工程途中である車も20台用意して撮影をしたのだそうだ。  こうした飽くなきスタッフの研鑽が、劇中の1960年代の“空気”を見事に再現している。かつての企業同士の戦い、熱い攻防が展開するレース、そして男たちの関係性を描く“実話もの”として、その空気は必要不可欠のものであり、またとない贅沢な映画体験をもたらしているのである。

おまけ:マット・デイモンとクリスチャンベール、そのキャリアの集大成的なキャラクターなのかもしれない。

 最後に、マット・デイモンとクリスチャン・ベールがそれぞれ演じる、カワイイおじさん2人が、そのキャリアの集大成的なキャラクターであり、また俳優としての本人像と重なるということもお伝えしておこう。  実は、マット・デイモン演じるキャロル・シェルビーは元々は頂点を極めたと言ってもいい優秀なレーサーなのだが、心臓の病気のせいで一線を退かなくはならなくなったことが映画の冒頭でわかる。  監督のジェームズ・マンゴールドはマット・デイモンについて、「長いキャリアから悪評と名声を手にしているが、40代の俳優らしい“自分はどこに行くのか”という疑問にもぶつかっている。その姿は劇中の、無理難題でもあるが一生に一度のチャンスを掴み“自分を見つめ直す”キャロル・シェルビーの姿と重なっていた」と考えていたのだそうだ。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)や『オデッセイ』(2015年)などでマット・デイモンが演じていた、“不屈の精神を持つ天才”にも通じるキャラクターとも言えるだろう。  一方で、クリスチャン・ベールは良い意味での“役者バカ”と言われてしまうくらいに役作りに余念がない……というよりも、1年間眠っていない男が悪夢のような体験をするスリラー映画『マシニスト』(2004年)の撮影のために30キロ減量するなど、ほとんど狂気のような執念を燃やしている俳優だ。そんな彼は、『ザ・ファイター』(2010年)で天才だが短気な性格から生活が破綻していくボクサーという、やはり『フォードVSフェラーリ』に通ずる、しかも実在の人物を演じていた。  それでいて、クリスチャン・ベールは俳優としての役への情熱があるあまり、ズケズケとものを言うことも業界では評判(?)になっていたのだそうだ。その本人像もまた、劇中の“能力は高いもののお偉いさんの言うことをなかなか聞かないために企業から疎まれがちな問題児”というキャラクターに通じている。  言うまでもなく、マット・デイモンとクリスチャン・ベールは劇中で見事な演技を見せており、そしてハマり役だ。ハリウッドの最高の俳優2人による、最高の男2人の関係性を紡いだ、この『フォードVSフェラーリ』、ぜひ劇場でご覧になってほしい。
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

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<文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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