企業による「個人PC点検」はどこまで許容されるべきものなのか?

仕事とプライベート どこまで切り離すことが可能なのか

 プライバシーの問題が発生するにも関わらず、こうした商品が提供されているのは需要があるからだろう。その背景として、情報技術の進展により、社内情報の流出が非常に容易になったことが挙げられる。  紙の文書と違い、デジタルデータは、ネットワークがつながっていれば容易に別の場所に転送できる。また、画面をスマホのカメラで撮り、そのデータを持ち帰るといったことも可能だ。  情報の流出を絶ちたいという企業側の考えは分かる。しかし、対策すべき箇所が異なるのではないかという疑問がある。個人のパソコンという下流ではなく、もっと上流でせき止めなければならないのではないか。  そもそも現在のネット環境では、会社のコンピューターから自宅のコンピューターにデータを送るのではなく、クラウドのサービスに送るだろう。その前にブロックしなければ意味がない。それも、Windows だけ精査しても対策としては不十分だろう。  また、情報技術の進展がもたらしたのは、データのポータビリティだけでない。仕事の仕方も大きく変えつつある。どこでも仕事ができる環境になってきた。その結果、仕事とプライベートが曖昧になっている。  一ヶ月のうち数日、自宅勤務を許す会社も増えているだろう。その際、個人のパソコンから、会社のサーバーにログインして作業することを許可しているかもしれない。本来なら、会社支給のパソコンでやるべきだが、予算の都合でそうなっているところもあるだろう。逆のケースで、会社支給のノートパソコンやタブレット端末を、私用に使ってしまっている人もいるかもしれない。  仕事とプライベートの切り分けができている会社は、想像以上に少ないのではないか。個人のSNSアカウントで会社の宣伝が求められることもあるだろう。Google にしても、社員が休日に個人的に行ったプロジェクトに知的財産権を主張しているとの話が最近あった(GIGAZINE)。  個人のプライベートは、今後ますます企業によって削られていくことが予想される。個人は会社に、所有する権利のすべてを捧げているわけではない。何らかの歯止めが必要なのではないか。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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