「好きを仕事に」する前に「やりたくない仕事」に直面したら人はどうすべきか?
「誰しもやりたい仕事に就けるわけではない」「仕事だからやりたくない仕事でもがんばれ」……とはよく言われることで、やりたいことを仕事にすることを諦めている人も少なくありません。しかし、もしやりたいことを仕事にすることができる、仕事がやりたいことになる確度が高まる方法があれば、その方法を試してみたいと思わないでしょうか。
今回は、やりたいことを仕事にしてきた人で、しかもやりたくない仕事にも直面したこともある、元映画プロデューサーの鈴木裕光氏に、本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫ります。
山口博氏(以下、山口):「鈴木さんは、大手生命保険会社総合職として企画業務に従事した後、20代でギャガ株式会社へ転職され、映画プロデューサーとして活躍されています。大胆なキャリアチェンジだと思いますが、きっかけは何だったのですか」
鈴木裕光氏(以下、鈴木):「大学4年の就職活動時、自分はマスコミ業界、特に当時はテレビ局しか眼中になく、とにかく映像を作る仕事をしたかったんです。数社、最終面接にまで辿りついたものの内定とれず。まったく橋にも棒にもだったら諦めもついたのですが、最終まで残れたのに……。それが悔しくて。
でもゼミの同期が次々と一流企業に内定していくなか、自分も夢と現実を分けて考えるしかなくなり『就職は生活を豊かにするため、お金を稼ぐための手段なんだ』と割り切りました。当時給与水準が高いと言われていた銀行、生損保に内定をもらって、結局そこに就職したわけです。自分の中では『割り切った』と思っていた『映像を作る仕事』への想い、実は根底に残っていたんですよね」
山口:「しかし、’90年代のことですね。まだまだ転職する人は少なく、特に大手企業では、ほとんどいなかった時代だと思うのですが、転身することへの葛藤はありませんでしたか」
鈴木:「はい、その時は少しテンションあがってたんでしょうね、葛藤はなかったです。当時の上司・同僚からは『もったいない!』『うちのような大手企業を辞めるなんてあり得ない!』という声も多かったですが、不思議と気にならず。
でも実は転職してから『あれ?』と思ったことは何度もありました。というのも、転職した会社は当時ベンチャー企業の映画配給会社であり、転職前の大手生保と比べ、給与面はもちろん福利厚生など待遇面では前職の半分レベルに落ちてしまい、やりたい仕事ばかりに目が行き、待遇面など深く考えず飛び込んでしまった自分に対して、『あれ?』と思ったわけです(笑)。やっぱり大手企業は恵まれていたんだなぁ~と改めて実感したというのはありました」
山口:「周りからどう見られるかという自分の外側の価値基準ではなく、自分自身の内なる声に従って行動した結果なのですね。いつ頃から、自身の内面の価値基準に従って行動できるようになったのですか。もともとですか」
鈴木:「生保入社後は、青森支社・本社を経験したのですが、楽しく仕事ができていました。いまでもハッキリ覚えているのは社会人2年目の青森支社時代、自宅に持ち帰った仕事をテレビを見ながらしていたのですが、見ていた番組のエンディングクレジットに友人の名前が! 彼は就活時代に知り合った友人で良きライバルでした。それを目の当たりにしたのが、自身の内なる声に気づいた最初のきっかけだと思います。
またその後、本社勤務の時、当時独身寮の食堂にあった日経新聞の求人記事に映画配給会社があって、思い切って飛び込んでみようと、自分の価値基準、自分が本当にやりたいこと、実現したいことは何かに従って行動してみたのです」
山口:「世の中を動かしている人は、行動の価値基準が自身の内面にある人で、鈴木さんもその一人だと思います。そうした人を少しでも増やしたいと思い、私は自分や相手のモチベーションファクター(意欲を高める要素)を見極めて行動することを提唱しています。
ところで、保険会社企画担当から、映画プロデューサーとは、キャリアチェンジの度合がとても大きいですね。保険会社の経験が役立つ業務とは思えないのですが。一から再スタートという気持ちだったのですか」
鈴木:「私も一から再スタートになるだろうと覚悟していましたが、業界特有の商慣習や用語などを早期に習得できさえすれば、あとは何とかなるでしょう!と楽観的でした(笑)。その考えの根底には生保時代に上司に教わった『段取り力』があったからこそ、だと思っています。社会人2年目のころにそれを体得し、その後10年くらいはその『段取り力』だけで飯が食えました(笑)」
山口:「前職で修得したスキルを、転職先で生かすことができれば、まさにキャリア開発になりますね。その後、映画プロデューサーからバンダイナムコグループへ転身しています」
鈴木:「映画というのは『権利の塊』のなんです。前述したように、原作権から始まり、映画配給権、DVD化権、テレビ放映権、商品化権など、つまり、映画は『権利ビジネス』そのものなのです。私は映像だけでなくエンターテイメント全般にも興味があったので、映画の版権ビジネスで得た経験・知識を他のエンタメ分野でも活かせないかと30代中盤にさしかかるとき考えるようになっていました。
そんな折、ちょうどバンダイで中途採用の募集があり、商品化権にかかわる仕事、それも運よく映画コンテンツ関連ができるという。再度自分の中に『内なる声』が出てきました。バンダイと言えば、誰もが子供の頃大変お世話になったキャラクターの玩具を作っている夢ある会社でしたし、『自分の経験値が活かせるならシフトチェンジしてみよう!』と思ったわけです」
大手保険会社から転職
ライバルの活躍で内なる声が沸き上がった
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