「食」を通じて世界の課題を映す。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』テレビ東京・上出遼平氏<新連載/新時代・令和のクリエイターに聞く1>

取材先は課題のある国

――『ハイパーハードボイルドグルメリポート』第1回のリベリアの少年兵と売春婦に焦点を当てた放送が衝撃でした。なぜリベリアだったのでしょうか。  4年ほど前、『世界ナゼそこに?日本人』のロケで初めてリベリアに行きました。  行ってすぐにこの国の凄まじさに気づいたんです。最近まで激しい内戦が続いた戦場でもあり、世界中を震撼させたエボラ出血熱の震源地でもある。世界中の不幸の盛り合わせみたいな国でその傷跡はそこら中に残っていました。そこで、これは内緒ですが、メインの日本人の密着取材は後輩のADに任せて、僕は国の取材を進めました。そこで、廃墟に暮らす少年兵達の存在を知りました。そして、いつかもう一度ここに来て彼らを取材しようと決めたんです。
(c)テレビ東京

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 ――取材期間は?  『ハイパー〜』のロケでリベリアに滞在したのは4日ほどでした。取材日数は予算と制作期間によります。予算がもっとあったらもっと長く現地にいたいですね。でも、長くいたらそれだけいいものが撮れるという保証もありません。ロケの初日にいい出会いがあればそれで十分ですし、何日いたって誰とも心を通わせられないこともある。ただ、長くいればそれだけ素敵な人と出会える可能性は上がります。  予算はめちゃくちゃ安いですよ。テレビ東京の深夜枠で海外ロケはこれまであり得ませんでした。普通のクルーで行ったら片道の航空券代だけで終わるような感じです。そういうこともあって、自前のカメラを4台背負って、一人で現地に行くスタイルに落ち着きました。 ――売春で稼いだ200円をそっくりそのまま夜ご飯に使う売春婦のラフテーさんが印象的でした。彼女には現地で会ったのでしょうか?  そうです。完全な偶然です。本当の出会いがこの番組を作っています。彼女は最終日に会ったんです。彼女と夜ご飯を食べてその足でタクシーで空港まで爆走しました。 ――どうやって国選びをしているのでしょうか?  貧困、犯罪組織、売春、薬物、ゴミ問題などいくらでもある世界の課題に目配せして選んでいます。例えば『ハイパーハードボイルドグルメリポート』第1回のリベリアは内戦と売春、第2回のロスアンゼルスのギャングは犯罪組織、第3回のシベリアはカルト宗教、第4回のセルビアは難民、第5回のネパールは児童労働が入り口のテーマになっています。  ただ、それはあくまでも入り口であり、そこで暮らす誰かと出会ったら「食べる」ことを通して「生きる」こととは何かを探っていくことになります。 あと、まずは自分がそこに暮らしている人に興味があるか否かが重要です。興味があると思えたらロケに行きます。 ――そうなんですね。  2019年10月放送の『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』(全7回の放送のうち第6回放送以降は番組名が変更)の第2回は突然番組を作ることになったので、調べている暇がなかったせいもあり、“今まさにニュースになっている場所”に行くことにしたんです。  それで、ギリシャと香港に行きました。香港へはもともと僕が行きたくて準備していたのですが、出発前になってシリアやアフガニスタン、イラクの中東諸国からトルコを経由してギリシャの小さな島に1日で500人以上が流れ着いたというニュースが飛び込んできて、僕はそちらにシフトしたんですね。香港へはもう一人のディレクターが行きました。  ニュースでは現象としての情報しか見せてくれません。ニュースという文脈を離れた時に彼らが何を話すのかということを知りたくて取材に行きました。一緒に飯を囲めば、あらゆる文脈から離れることができるはずなので。
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 ――時事的な問題を扱う時に気を付けていることはありますか?  ジャーナリスティックになり過ぎると視聴者の方は受け取り辛くなるのかなと感じることもあります。  例えば、第4回放送には、ガンになった青年が母国パキスタンを捨ててイタリアを目指すエピソードが出てきます。本来であれば中東各国の政治、経済状況や、難民受け入れ側である西洋諸国の国民感情やそれに伴う右派政権の台頭まで説明しなければ正確な事実を伝えることは難しい。さらに、難民条約が認める「政治難民」の条件についても解説すべきです。パキスタンの青年はきっと「政治難民」には認定されない。  けれど、それを説明してしまうと、違う趣の番組になってしまうんですね。なので、あの場では「生きるために母国を捨てて長く危険な旅をしている若者がいる。何でなんだろう?」ということを分かってもらえれば十分と思うことにしています。

ディレクターは優しい人に

――ディレクターはどのようにして選んでいますか?  優秀なディレクターはたくさんいますが、そこは求めていません。優秀なディレクターは人の汚いところを面白おかしく描けたり、意地悪な質問をしたり、カメラワークがうまかったりと色々ですが、この番組は被写体との関係性がすべてなので、優しさを求めています。  テレビ東京のディレクターは僕1人で後は制作会社のディレクターが3人です。 ――演出については何か心掛けていることはありますか?  まず、ナレーションがないのですが、これは自分の説明の手段を断ち切っているためです。ナレーションがあると、「これもあれも分かって欲しい」といくらでも説明したくなってしまうので。制限を課して現場の空気感だけで物語を構築しています。  真面目な報道番組なんだ、と思って欲しくないので説明の量についても気を付けています。  また、現地の人の言葉を吹き替えていないのもテレビ番組としてはかなり特殊です。吹き替えが許されると、いくらでも嘘がつけてしまいますし、「こう言って欲しい」という制作側の希望通りに物語が進んでいくことになるので、面白さに限界が生じてしまうんですね。 ――スタジオセットがありませんね。  最初からそうしたいと思っていました。実際予算が全くないということもありますが、この番組はロケに全ての力を割いているというメッセージでもあります。ロケ以外には全く頓着していません。 ――音楽も印象的です。   番組の中で流れている音はカホンという南米の打楽器を使っています。音楽で楽しい悲しいという感情の誘導はしたくないので、打楽器だけにしました。  ただ、感情の誘導を避けるために音楽をゼロにすることはしません。気持ち良く映像を見る場合にはリズムが必要ですし、リズムは推進力にもなります。カホンは自分でも持っていますが、叩けば体が動き出すような、鼓動にあったようなリズムを作れる楽器なんです。 ――劇映画的な展開もありますね。例えば第1回のリベリアのラフテーさんとは、出会って売春をしてそれで稼いだお金で一緒にご飯を食べて「じゃあまたね」と言って別れます。人と人とが出会って別れるというロードムービー的な印象も受けます。  人との出会いの部分がなかったらこの番組の内容はただの情報なんですよね。こういうところにこういう人がいます、こういう物を食べています、という速報価値のないニュースになってしまう。  報道的な視点で余計な情報を切ろうとしたら、ほとんど中身がなくなってしまいます。  僕ら日本人がどこかの国へ行って一緒にご飯を食べて別れる。その物語性こそがこの番組をエンターテイメントたり得させている本当のポイントです。「食」やどこかへの「潜入」というのは、実はエンターテインメントを偽装するツールでしかないんです。 *後半ではテレビ局に入局した経緯や今後の番組作りなどについてお伺いします。 <取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
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★2020 年 1 月 1 日(水・祝)27:50~29:11 「ハイパーハードボイルドグルメリポート」 #1・・・アフリカ元少女兵に密着&台湾マフィア組長は何を食う? #2・・・全米一危険な街で殺し合う極悪ギャング 双方のアジトに潜入!

★2020 年 1 月 2 日(木)25:25~27:00 「ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート」 #1・・・ゴミ山暮らしの若者飯&人食い山の炭鉱飯&密漁キャビア飯

★2020 年 1 月 3 日(金)27:00~28:21 「ハイパーハードボイルドグルメリポート」 #3・・・麻薬密売アパート&極寒シベリア山奥のカルト教団村に潜入! #4・・・中東から西ヨーロッパを目指す命をかけた不法国境越え


【イベント】
2020年 1 月 10 日(金) 「阿佐ヶ谷 Loft A」にて、 日本を代表する探検家・高野秀行氏をゲストに招き、上出 P の『ハイパーでハードボイルドなグ ルメ新年会』を開催! チケット発売中! 詳しくはコチラ→「Loftスケジュール

【配信】
◆Paravi ではスピンオフ「放送できなかったヤバい飯」全 5 話を含むシリーズ全作を配信中! さらに 10/14(月)オンエア最新作も独占見放題配信中! Paravi ハイパーハードボイルドグルメリポート#1~5
ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート#1~2 スピンオフ#1~#5) →Paranavi

◆以下動画配信サイトでも配信中! ※過去作の一部のみ配信
Netflix
Hulu
プライム・ビデオ

◎スピンオフ動画シリーズ#1「リベリア編」・#2「ロサンゼルス編」を配信! テレビ東京公式 YouTube チャンネル
◆これまでの作品◆
*ハイパーハードボイルドグルメリポート
#1・・・アフリカ元少女兵に密着&台湾マフィア組長は何を食う?
#2・・・全米一危険な街で殺し合う極悪ギャング 双方のアジトに潜入!
#3・・・麻薬密売アパート&極寒シベリア山奥のカルト教団村に潜入!
#4・・・中東から西ヨーロッパを目指す命をかけた不法国境越え
#5・・・アメリカ出所飯&ネパール火葬一家の飯

*ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート
#1・・・ゴミ山暮らしの若者飯&人食い山の炭鉱飯&密漁キャビア飯
#2・・・ギリシャ難民漂着飯&激動の香港デモ飯