ユニオンの河野委員長は本部の対応が不十分だったと指摘
また河野委員長はセブン‐イレブン本部社員の立場から、今回の件に関して本部の対応が不十分であったことを具体的に指摘した。
「クレームはまずお客様相談室に寄せられるシステムになっています。その次にクレームが寄せられた店舗を担当するOFCに即刻電話がかかってきます。そうすると本部社員は他のお店とのコミュニケ(OFCと加盟店オーナーの打ち合わせ)をすっ飛ばしてでもクレーム対応をしなきゃいけない。それがお客様を第一にするセブンの方針です。
しかし、松本オーナーに寄せられたクレームについては、OFCがまったくそれを伝えていなかった。それを怠っておきながらクレームがこんなに来てるぞ、といきなり出してくるのは、本部としてあり得ない対応だと私は思っています」
またユニオン書記長の鎌倉玲司さんは、具体的な契約書の文面を踏まえて今回の契約解除通告をどのように捉え、今後対応していくかについて次のように説明した。
「今回契約解除の理由とされているのは基本契約の46条です。これはオーナー側がセブン側から契約書の特定の条項にかんする契約違反を指摘されたのち、10日以上の一定の期間をおいても改善が見られなかった場合、契約を解除できると定めている条文です。
ここで想定されているのはたとえばセブン‐イレブンの看板ではなく別の看板をつけて営業していた等の、フランチャイズ契約として到底認められないような違反行為です。特定の条項には接客も含まれていますが、いわゆるクレーム対応を念頭に置いて基本契約46条が作られているとは思えない。
そもそも多数のクレームの対応をすべて行わせ、その結果についての判断を10日間という期間で下すなど不可能です。ましてや数千万という売り上げがある店ですから、単なるサラリーマンの解雇よりも経済的な損失が大きく出ます。それを10日間で一方的に行うのは不当であるというのがこちら(ユニオン側)の弁護士の意見です。
29日の話し合いの際に松本オーナーに寄せられたクレームについて細かく一つ一つ精査することになっていますが、クレームが多かったということが事実無根であるならば、松本オーナーへの名誉毀損として対応することも視野に入れています。セブン‐イレブンとオーナーの契約は双方の契約ですので、違約金は双方に発生する可能性があります」
今回の会見で松本オーナーは「令和最初のお正月ですし、29日の本部との話し合いで円満解決を目指したいです」と述べ、セブン本部がこれまでとは違って弁護士同席の上で本格的な話し合いの場を設けたこと、また元旦ストライキは契約解除の事由ではないとしていわば黙認したことの二点を評価した。
しかし、もし31日に契約解除をされた場合にどうするかということに話が及ぶと、その後の提訴という法的措置とは別に、万が一本部がロックアウトなどの実力行使に出た場合の対抗措置も決してあり得ないことではないとして準備している、とユニオンの方針が明かされた。ユニオンとしても、31日・1日に松本オーナーに協力してくれるよう、関西の合同労組に呼びかけているという。契約を解除された場合にはシステム上発注が行えないようにされてしまうが、メーカーとの個別交渉で店舗の経営を続けられるよう努力するとのことだ。
一人一人の労働者が孤立した状況では圧倒的な力を持つ経営者に対して声を上げることが難しい。そこで労働者同士が力を合わせて経営者に物を言うために結成されるのが労働組合の本来の在り方だ。ロックアウトやスト破りへの対応といった話が出てくるところからは、コンビニ関連ユニオンはそのような基本的姿勢をあくまでも貫こうとする労働組合であることが分かるだろう。
そんなのはあまりにも大袈裟な話だと考える人もいるかもしれないが、しかしセブン‐イレブン本部がオーナーを強制的に締め出したというのも前例のない話では決してないと今回の会見で語られた。現に今年話題を呼んだ佐野SAの第二波ストライキではスト破りが強行された。労働運動がほとんど見られなくなった現代日本を生きる我々としては現実感のない話だが、半世紀以上前の三井三池炭鉱の争議では大企業に雇われた暴力団員によってストに入っていた労働者が殺害されたこともあった。
現在、憲法第28条で保障されているはずの労働組合としての活動を行った恐喝罪や威力業務妨害罪などの容疑で90名近くが逮捕されている全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部の武委員長は、労働運動をやる上で暴力団員に5回殺されかけたことがあったと語っている。今回の会見ではその関西生コン支部の武委員長がよく言っている「人の痛みは己の痛み」という言葉が河野委員長の口から語られた。
「同じくコンビニで働いている人の痛みというのは、己の痛みであると、人の痛みは己の痛みであると、私たちは労働組合として考えています。勇気を持って休みたい時は休みましょう」
矢面に立つことになる松本オーナーを先頭としたユニオン側の予想は杞憂に終わるのか、それとも――どちらにせよ、今回の元旦ストライキは新たな形で始まった日本の労働運動のターニングポイントとなることは間違いないだろう。
<取材・文/鈴木翔大>
早稲田大学在学。労働問題に関心を持ち、執筆活動を行う。