クラフトビールはなぜこんなに人気が出たのか?
ここ2年ほどで、目にする機会が圧倒的に増えてきたクラフトビール。今では、「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイングをはじめ、COEDOや常陸野ネストビールといった、国内ビール大手5社以外のビールがコンビニやスーパーでも気軽に買えるようになった。
また、「タップ」と呼ばれるビールサーバーの注ぎ口がズラっと並んでいて、10種類以上の樽生クラフトビールが楽しめるような飲食店もあちこちでオープン。夏を中心にビアフェスタも全国各地で開催されるなど、かなりの盛り上がりをみせている。
国内ビール大手5社のビール系飲料の出荷量は10年連続で減少し続けるなか、国税庁が昨年末に発表した「地ビール・発泡酒の製造概況調査」によると、平成25年、製造会社166社の平均販売金額は8700万円近くで、前年比14%増加と好調を維持。地ビール、ではなくクラフトビールという呼び方が定着しつつあるとともに、その人気が高まっているのは確かなようだ。
日本における現在のクラフトビールの歴史は、今から20年前に遡る。1994年の酒税法改正により、最低製造数量60キロリットルと少量生産できるよう規制緩和されたことで、全国各地に小規模なビール製造会社が誕生。地ビールブームとなったのだが、それが今のクラフトビールブームに繋がっているのだ。
では、ここで改めてクラフトビールとはいったいどういったものなのか、クラフトビール情報を発信し続けるサイト「クラフトビール東京」を運営する川野亮氏に聞いてみた。
「小規模な醸造所(ブルワリー)で高い醸造技術を持ったビール職人が、美味しいビールを追い求め、丹精込めて造ったビールのこと。クラフト(Craft) とは職人が造り出す工芸品の意味合いです」
地ビールといったい何が違うのか混乱しそうになるが、その違いや経緯について川野氏はこう説明する。
「地ビールブームが起きた当時、多くのブルワリーが町おこしとか地場産業の発展を目的として地域おこし的な観点による地産地消的発想でビールを造っていました。地場産品を副原料とするようなビールを造っていて、立ち上がり初期は多くのブルワリーでは、醸造技術がまだまだ未熟だったこともあって、地ビールは『高い割にはおいしくない』といったイメージが定着。2000年くらいには下火になってしまったんです」
はっきりした数はわからないものの、最盛期には全国に300か所近くあったとされるブルワリーの数は、2005年頃には180か所くらいにまで減少。その後、生き残ったブルワリーが地ビールのマイナスイメージを払拭するべく、品質重視の本当に美味しいビールを追求していくなかで、クラフトビールと呼ぶようになったのだ。小規模醸造が盛んなアメリカに倣った新しいブルワリーもいくつか誕生し、ブルワリーの数は200か所近くにまで回復してきたと言われている。
「地ビールブームの頃は、ドイツを手本としたブルワリーが多かったのですが、新しいブルワリーの多くはクラフトビール造りが盛んなアメリカをはじめ、ヨーロッパの影響を受けています。最近では各国のブルワー同士の交流も盛んになっていて、日本のクラフトビールはどんどんレベルアップして美味しくなっていますね」(川野氏)
川野氏は、日本のクラフトビールは「2012年の夏あたりから風向きが変わり、2013〜2014年にかけて人気が出てきた」と言う。クラフトビールの魅力とはいったい何なのか。
「これまでの日本の大手メーカーのビールと言えば、“とりあえずの一杯”に象徴されるように、のどごしがいいピルスナータイプのビールがほとんどなのですが、クラフトビールは多様性があると言いますか、様々なスタイルのビールが楽しめる。それが最大の魅力だと思います。世界的に流行っているIPA(インディア・ペール・エール)というスタイルのビールは、ホップのフルーティな香りと苦みが人気で、特に柑橘系のグレープフルーツのような香りにやられちゃう人が続出してます(笑)。これまでビールは苦手だったのにIPAを飲んでからクラフトビールにハマったという人を私は何人も見てきました。ただ、苦みが強いので、苦みがダメだという人には、また違ったスタイルのビールもあります」(同)
「日本は本格的にクラフトビールのムーブメントが起き始めたところ」だと分析する川野氏は、クラフトビールが人気となってきた理由をこう説明する。
「大量生産・大量消費という、みんなが同じお酒を飲むっていう時代が終わりつつあって、自分の嗜好をわかった上でビールを選んで飲みたい人が増えてきたんじゃないでしょうか。確かに飲食店で飲むとなると、これまでのビールに比べるとかなり高い値段だったりするのですが、それでも自分の好きなビールを飲みたいという人が増えてきた。その動きに飲食店側も気づいてどんどん店が増えている。そこでまた、新たにクラフトビールを体験して飲むようになる人が増えるといった相乗効果が続いている状況だと思います」(同)
今後、日本におけるクラフトビールブームは続くのだろうか?
「私が運営する『クラフトビール東京』のアクセス数はこの2年間で急激に増え続けていて、今では多い時で月間25万ページビューになりました。お店紹介ではクラフトビール専門のお店のみを実際に訪れて紹介しているのですが、まったく追いつかないといった状況です。自家醸造ビールを提供するブルーパブなども出てきているので、ブルワリーの数も今後、増えていくと思います。地ビールが解禁になってちょうど20年が経つのですが、ビール関係のメディアだけではなく、一般メディアからの取材も増え続けていますから、希望的観測も含めて今後はさらにクラフトビールが多くの人に認知されて、将来的にはクラフトビール文化が定着していくことになると思います」(同)
地ビールブームの失敗から多くを学んだ人々が、ようやく辿り着いた静かなるクラフトビールブーム。2015年、もしかしたらこのブームが大ブレークする年になるのかもしれない。<取材・文/國尾一樹>
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