夢を語らない友人たちが歯がゆい――【石原壮一郎の名言に訊け】~松坂大輔の巻~
2015.01.17
Q:男は、でかい夢を持ってナンボじゃないのか。オレは今はしがないサラリーマンで、会社と家を往復する毎日だけど、いつかミュージシャンになるという夢がある。だけど友人たちは、酒を飲んで俺が夢を語り始めても、茶化したりウンザリした顔をしたりするばかりだし、「お前の夢はなんだ?」と聞いても真面目に答えようとしない。「夢ばっかり見てないで、もっと現実を見ろよ」と言うヤツもいる。そんな友人たちが歯がゆくて仕方ない。夢を持つのって、そんなにヘンなのか?(京都府・23歳・営業)
A:おやおや、ずいぶん威勢のいい方からの相談ですね。若い頃に夢を抱いて姉妹でアメリカにわたって、いろいろあって、今は錦糸町でスナックをやってるミサさん(姉)とリサさん(妹)のご意見を伺ってみましょう。
ミサ「なに、こいつ。だいたい『男は』とか言ってる時点で、ダメ臭がプンプンするわね」
リサ「あらら、姉さんお得意の決めつけね。ま、私も同感だけど」
ミサ「夢を語るのなんて、簡単なの。どうとでも語れるんだから。そりゃ、誰もまともに聞かないわよ。こう見えても、私たちだって夢があったのよ」
リサ「姉さん、写真は載ってないから『こう見えても』って言ってもダメよ」
ミサ「あ、そうね。それはいいんだけど、かれこれ30年前、ハリウッドで女優になりたいという夢に向かって、私たちはアメリカに渡ったの」
リサ「いやねえ、歳がばれるようなこと言っちゃって。渡ったわね。ハリウッドがどこにあるかわからなくて、ニューヨークに行っちゃったのが失敗の始まりだったけど」
ミサ「いいのよ。大事なのは、そうやって行動を起こしたってこと。相談してきたこいつは、夢を語るばっかりで、どっからどう見ても何もやってないわよ」
リサ「姉さんが、どこをどう見たのかはわからないけど、まあ、やってなさそうね」
ミサ「私たちと同じようにアメリカに渡った後輩の松坂大輔君が、いいこと言ってるわ」
【僕は夢という言葉は好きではないです。見ることはできてもかなわないのが夢。僕はずっとここで投げられると信じて、目標にしてやってきたから、今ここにいられるのだと思います】
リサ「後輩って……。ボストン・レッドソックスの入団会見で、記者に『夢をかなえた気持ちは?』って聞かれたときに、こう答えたのよね」
ミサ「そう、夢を持つのがエライわけじゃなくて、夢に向かって努力するのがエライのよ」
リサ「ちなみに、松坂大輔の坂は土へんで、牛肉で有名な三重県松阪市はこざとへんよ。間違いやすいから、ご注意あそばせ」
ミサ「大きな夢を語りたがるヤツって、現実ではコンプレックスのかたまりだったりするのよね。それを埋め合わせたくって、夢がどうのこうの言いたがる。夢って便利よね」
リサ「まあまあ、あんまりほんとのこと言っちゃかわいそうよ。もしかしたら、この人もそれなりに努力してて、なんかのはずみでビックになるかもよ」
ミサ「そんときは、手をついて謝って、ウチの店にボトルを入れてあげるわ。そうそう、松坂君は入団一年目で10勝目をあげたときに、『どうだ、って見返すことができました』って言ってるの」
リサ「シーズン前は『10勝は無理だ』って下馬評だったのよね。結局、高卒ルーキーとして32年ぶりの二ケタ勝利どころか、この年は16勝までいっちゃったけどね」
ミサ「相談してきたあんたも、このセリフを言えるようにがんばってちょうだい!」
夢を語るのは、自分を実際以上に大きく見せたり、ちゃんとがんばっているという錯覚を抱いたりできる、もっとも手っ取り早い方法です。現実で満たされていなくて友がみな我より偉く見えるときには、大きな夢を語れば自分をごまかすことができるでしょう。あくまでその場しのぎだし、癖になると周囲から痛いヤツと思われるのは避けられませんが。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
【今回の大人メソッド】現実で満たされていないときは、大きな夢を語るに限る
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