九州の11万都市で進行する異変。魅力的だった学童保育が危機に。背景に多選市長の影響か?

春日市の学童保育

撮影/みわよしこ

今、なぜ、少子化を加速? とある自治体の謎の動き

 2019年12月17日、世界経済フォーラムは恒例の「ジェンダーギャップ指数」を発表し、日本は過去最低の121位(153ヶ国中)となった。その衝撃も冷めない12月24日、厚労省は2019年の人口動態統計年間推計を発表し、2019年に生まれた日本人の子どもが90万人を割る「86万4千人」という出生数が全国に衝撃を与えた。出生数が90万人を切ったのは、統計が開始された1899年以来初めてのことである。女性の活躍推進と少子化対策は、政府が重点的に対策を行ってきた分野であるが、対策が質量ともに不足していることは明らかだろう。  同じ2019年、福岡市に隣接する11万都市で、女性の活躍推進にも少子化対策にも逆行する施策が現実化しつつある。  その市は、充実した子育て支援・教育支援の長年の実績を評価されてきた。利便性は福岡市南区と大差なく、しかも家賃相場は若干低いため、若い子育て世帯の転入も多い。高齢化は全国と同等に進行しているが、2018年の高齢化率は20.9%であり、同年の全国での高齢化率28.1%より約7ポイント低かった。しかも、いわゆる「団塊世代」の高齢化は一段落ついたところである。働き盛りの人口や子ども人口の減少が抑えられれば、高齢化の進行を乗りこなし、乗り越えることができそうだ。そして少子化に関して言えば、むしろ楽観できそうである。市の15歳未満の子ども人口は、2016年度末には17965人(人口比15.9%)、2018年度末には17581人(人口比15.5%)であった。若干の少子化傾向は見られるものの、全国の子ども比率が2016年度の12.4%から2018年度の12.1%へと減少していることを考えると、むしろ「少子化に抵抗できている」と見るべきであろう。  市の財政は、極めて健全な状況にあり、黒字が累積されている状態だ。むろん、問題や課題はある。最大の問題は水だろう。もともと水不足に苦しんできたその地域には、古い由来を持つ溜め池が多い。福岡市のベッドタウン化が進むとともに、水資源問題はさらに深刻になっている。とはいえ、そのような課題の数々に対応しつつも、市の財政は健全なのだ。「呑気に、少子化などという未来の話をしているわけにはいかない」という状態ではない。  その11万都市は、福岡市の南側に隣接する春日市。筆者が5歳から20歳までを過ごした郷里だ。緑が豊かで暮らしやすく、保育や教育も充実している。しかし、春日市を子育ての場として選んだ親たちとその子どもたちの一部は、「2019年度から2020年度にかけて春日市に住んでいた」という巡り合わせを、後々、痛恨の思いで振り返ることになるかもしれない。2019年度の春日市は、「少子化促進」「共働き抑制」「女性の活躍妨害」と呼びたくなる動きを加速させているからだ。

現行の学童保育は児童も親からも高評価だった

 数多くの動きが、数年前から同時進行しているのだが、喫緊の課題は放課後児童クラブ(学童保育)の今後だろう。  現在、春日市には12校の市立小学校があり、約7500名の児童が在学している(2019年5月現在)。全小学校に1つまたは2つの放課後児童クラブが設置されており、利用を希望する子ども全員が入れる。放課後児童クラブを利用している子どもの人数は、通常は約1200名、夏休み期間中は約1600名に達する。  春日市の放課後児童クラブは、1976年以後、保護者たちを中心に設立・運営されてきた。その特徴は、まず「子どもたちを中心に」というコンセプトに見られる。尊重されているのは、あくまでも子どもたちの自主性だ。活動内容の多くは子どもたちの話し合いによって決定され、その実現を支援員と保護者が応援し、見守るスタイルである。クラブ舎は温かみのあるログハウスを基本としているが、建造が間に合わない小学校にはプレハブのクラブ舎もある。  現在、放課後児童クラブを運営しているのは、保護者会を母体として2003年に設立された特定NPO「子ども未来ネットワーク春日」である。2006年、市が放課後児童クラブを指定管理に移行させた際、「子ども未来ネットワーク春日」が指定管理事業者となった。実際に放課後児童クラブを運営してきた保護者らによる特定NPOが、そのまま指定管理事業者として運営を引き継いだ形だ。以後、指定管理事業者の選定のたびに、「子ども未来ネットワーク春日」が選定されつづけ、現在に至っている。  春日市の放課後児童クラブの特徴は、子どもたちが伸び伸びと楽しそうに過ごしていることであろう。放課後、子どもたちは楽しそうにクラブ舎に向かう。校庭にもクラブ舎の中からも、楽しそうに遊ぶ子どもたちの歓声が弾ける。宿題や勉強が勧められることはないのだが、子どもたちは自然に、最初に宿題を済ませて遊びを満喫したり、計画を立てて試行錯誤することの重要性を体得したりするようだ。  少子化の原因の一つは、職業生活と育児の両立にまつわる数多くの困難だ。働く親たちは、子どもを持てても一人か二人であることが多い。しかし放課後児童クラブでは、多人数のきょうだい、あるいは大家族のいとこ会のように、年齢の異なる子どもが場を共にして楽しく過ごすことができる。今や、各家庭でこのような環境を用意することは困難だが、春日市では、放課後児童クラブで容易に実現できた……少なくとも2019年度までは。
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子どもも親も満足していた学童保育が「存亡の危機」
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