九州の11万都市で進行する異変。魅力的だった学童保育が危機に。背景に多選市長の影響か?

子どもも親も満足していた学童保育が「存亡の危機」

 放課後児童クラブに通っていた子どもを持つ親からは、「家庭では与えてやれない環境を経験させることができる」という点への好評価が語られる。また子どもたちは、学校でも家庭でもないけれども、そのいずれともつながっている「第三の場」で、子どもたちは、学校でも家庭でもできない活動をする。そこには、教員にも親にも言えない悩みを受け止めてくれる、支援員という名の大人がいる。子どもたちは毎日、自分たちの世界と自分たちの秘密を大切にしながら、幸せな子ども時代を過ごし、成長していく。  春日市の放課後児童クラブ(学童保育)は、保育の質の高さを評価され、全国の学童保育関係者や教育関係者にも注目される存在であった。他地域から、「春日市の学童」を志願して就職する支援員がいたほどである。小学校教員採用試験が狭き門だった時期、採用まで「春日市の学童」の支援員として経験を積むという教員志望者もいたという。  もちろん、働きながら子どもを育てる親にとっては、仕事を続けるために、学童保育が不可欠だ。「保活」や保育園の送り迎えに目を回す保育園児の時期が終わると、「小一の壁」が待っている。しかし、春日市の場合、「放課後児童クラブに入れない」という壁はない。また、子ども自身の保育園から小学校への移行も、「教育」を中心とする小学校と「保育」を中心とする放課後児童クラブの両方を利用することで、スムーズに行える。子どもが放課後児童クラブを利用していた母親の一人は、このように語る。 「私が働き続けることは、子どもたちにとっても家庭にとっても自分にとっても望ましいことだと思っています。それでも『子どもを預けて働く』ということには、どこか負い目や申し訳なさの感覚があります。それを吹き飛ばしてくれたのが、楽しそうに学童に通ってくれる我が子たちの姿だったんです」  自分自身の人生や子育てに困難を抱えている親もいる。放課後児童クラブは子どもたちのためのものだが、親自身が心を開く相手を見つけ、癒やされる機会となるかもしれない。春日市では、時にはそのような巡り合わせもあった。  過去形で記しているのは、来年度以後、現在の「春日市の学童」が消滅するかもしれないからだ。

自主性よりも「管理」の指定管理事業者が選定される

 2019年春、放課後児童クラブの次期指定管理事業者の選定が行われた。4つの事業者が応募し、9名の評価者が評価を行った。平均点では、現在の「子ども未来ネットワーク春日」が100点満点の0.5点という僅差で2位となった。1位の株式会社Tは、2019年9月の市議会で、既に次期指定管理事業者として選定されることになった(指定期間は2021年4月1日~2024年3月31日までの3年間)。  そしてこの選定が、現在、春日市の放課後児童クラブを利用している、1200名(学期中)~1600名(夏休み中など)の小学生たち、親たち、そして支援員たちに大きな影響を与えることになるかもしれないのだ。  選定の結果、2020年4月からの指定管理事業者として選定された株式会社Tは、多くの地域で、現在の春日市とは似ても似つかない放課後児童クラブの運営を行っている。  その一つは、最初に百人一首に取り組むことを、子どもたちの「義務」にしていることだ。そして宿題を終わらせないと、自由に遊ぶことはできない。つまり、支援員たちの役割は、「子どもたちを支えて希望を実現すること」ではなく、主に「事故が起こらないように監視すること」なのだ。円滑に管理するため、時には子どもに対する「体罰」といった手段が取られることもある。福岡県の他地域では、実際にそのような問題から事業者の交代となった事例もある。  放課後児童クラブの問題に深い関心を持つ春日市議の一人は、Tの運営する放課後児童クラブのうち数カ所を視察した。Tの本来の方針に沿った運営が行われているクラブでは、指定管理事業者が交代してTとなった新年度の4月と5月で、小学4~6年生の児童が全員、クラブから脱退したという。前年度までの常勤支援員は、80%が勤務を継続できなくなった。理由には、保育方針への違和感もあるが、勤務時間や報酬が変更され、雇用条件が劣化するという問題も大きい。  一方、Tを指定管理事業者として選択したものの、前年度までの支援員たちの待遇を向上させ、人員を増加させ、保育方針は変更させなかった自治体もある。もちろん、株式会社であるTの利潤を確保した上でのことである。子どもたちは前年度までの支援員が保育方針とともに残留している環境のもと、前年度までと同様に伸び伸びと放課後の時間を楽しんでいるという。唯一の問題は、Tを選定することによって自治体の支出が増大したことだ。  春日市は、少なくとも2019年12月の市議会において、現在の保育内容を継続させる方針を明確にしていない。市長や市役所側の答弁は、「支援員の雇用も、保育内容も、Tが指定管理事業者として責任を持って実行するはず」「市が内容についてとやかく言うと偽装請負になる」「とにかく決まったことだから、来年4月から結果を見てほしい」という内容に終始している。  しかし、子どもの自主性を尊重せずに管理する「T」が運営を行い、他の自治体のように多数の脱退者を出したとしたらどうなるか?  最も懸念されるのは、現在、春日市の放課後児童クラブを利用している、1200名(学期中)~1600名(夏休み中など)の小学生たち、親たち、そして支援員たちに及ぶ影響だ。子どもが放課後児童クラブに行かなくなると、親は安心して働いていられなくなる。もしも両親のどちらかが退職することになれば、親たち自身と子どもたちの将来に大きな影響が及ぶかもしれない。親の収入が減少すると、子どもたちは何かを断念しなくてはならなくなるであろう。生涯の友となるかもしれない習い事かもしれない。将来の選択肢をより豊かなものにするための進学かもしれない。  それほどまでに重大な変更が行われる経緯にも、不自然な感じを禁じ得ない。
次のページ 
あまりにも軽すぎる、重大な変更の根拠
1
2
3