未練タラタラ!「共通テスト・記述式」見送りに対する賛成派の「愚痴」に反論する<入試改革のあやまちを繰り返さないために1>

今になって湧いて出てきた記述式への未練

記述式への未練を断ちきれ 2019年12月17日に萩生田光一文部科学大臣の発表によると、2020年度から実施される共通テストにおける数学と国語の記述式試験が見送られることとなりました。萩生田大臣の言葉を借りると「まっさらな状態」から考え直すこととなるようなので、もう一度原点に立ち戻り、大学入試改革をオープンな形で議論されることが期待されます。  数学と国語の記述式の導入が見送られたことで、当初予定されていた大学入試改革の目玉である「英語の民間試験の導入」「数学と国語の記述式の導入」が両方とも頓挫した形になりましたが、これらの案は現実的に厳しいことと議論の進め方に不備があったことがわかったことは文科省にとっては一つの財産になったと思います。  さて、せっかく多くの専門家と高校生の声によって正常化の流れに近づいた入試改革ですが、今からでも元に戻す(それでも記述式を入れたい)流れもあるなど、今後も予断を許さない状況です。  今回は、記述式への未練をしっかりと断ち切り、今後設計されるであろう入試改革について提言をしていきたいと思います。まずは、今になって湧いて出てきた記述式への未練がいかに間違っているのか説明していきましょう。  共通テストの記述式の導入が白紙になったとたんに記述式導入の賛成者達がもう一度考え直すようにと、持論を展開する事態になりました。中には、記述式の設計者が「自分は悪くなかった」を主張するための無理なこじつけもあります。  この記述式の設計者達の恨み節は、一般の方が考える素朴な疑問(「なぜ記述式でないの?」など)とは異なり、特殊な数値を使い、普通は知りえない情報を利用して説得を試みたりするのですが、それが中身がないことも含め解説しましょう。一般の方の素朴な疑問については、すでに過去の記事で説明してあります。 【素朴な疑問についてはこちらの記事を参照】⇒「共通テスト記述式導入反対論」への難癖はここがおかしい。センター試験も知らずに政策決定する愚  今回は、「識者」「記述式の設計者」を名乗る方の意見に対する回答です。

記述式賛成論者が見落とす「論点」

意見1マークシート試験は、「人から与えられた選択肢の中から、一つ一つ重箱の隅をつつくように間違いを探して、消去法で正解を選ぶ」という試験であるから、マークシート試験はよくない。 【回答】  この意見を「マークシートはよくないから記述式に戻すべきだ」との主張と理解すると、その対象は数学と国語になります。私の専門は数学ですので、まず、数学の試験の現状を説明しましょう。  センター試験の数学では、そのように消去法で正解を選ぶことができるものは全体の中のわずかであることを知ってください。ほとんどの問題は結果の数値を求めなければ正解に達することができない問題なのです。ただし、いくつかの問題については、数式の中に埋め込まれた解答欄の形から多少は答の予想がつくものがあります。また、センター試験の癖を知っておけば安直に解決できる問題がありますが、これはマークシートに起因するものではありません。  次に、この指摘に対する回答ですが、そもそも記述式が見送られたのは、マークシート方式には欠点がないからではなく、記述式の採点が公平にされないであろうということが理由です。それは、50万人もの採点が正しくできるものかという点と、採点を請け負う「学力評価研究機構」が最近になって幽霊会社という話も持ち上がるなど不安を与えている点もあります。  私も、11月20日の段階でこの会社の所在地とされる西新宿2丁目のビルに行きましたがビルの下の案内板には見当たりませんでした。登記はされているので、存在しないことはないのでしょうが、この会社について大学入試センターが野党の議員から質問をされると「企業秘密」を繰り返すことで、「そもそも存在しないのでは?」という印象を与えるなど、実態が不透明なので早い段階でその不安を払拭するようにしてもらいたいと願います。 ◆意見1四択問題だけに慣らされると誰かが作ってくれた仮説の中に必ず正解があると思い込む癖がつく。 【回答】  考えすぎだと思います。一度、センター試験の問題をご覧になるとわかることですが、数学の試験ではそのようなものはごくわずかですので、「慣らされる」ということはありません。また、仮にそのような問題が多いとしても、国公立大学では、それ以外の問題が多くあります。センター試験と2次試験をあわせたものを試験と考えるとよいと思います。もちろん、センター試験だけで選抜する大学もありますが、そのような大学については、個別試験を実施するように促すのが直接的な解決でよい方法です。 ◆意見2 数学の力はマークシートより記述式でないと測れないではないか。記述式を反対した人達はマークシートでよいと思っているのだろうか。 【回答】  まず、共通テストの記述式に反対していた人達は決して「マークシート方式が記述式よりも優れている」と思っていたわけではありません。繰り返しになりますが、記述式では、短い時間に正確に採点ができないから反対しているのです。今の採点態勢では、間違った答が正解になり、逆に正解が不正解になる可能性もあります。これは受検者の努力では補えない部分ですので問題になるのです。この問題点については過去の記事にまとめて記載してあります。 【採点の問題についてはこちらの記事を参照】大学入試共通テスト問題。「記述式」で生じる3つの大きな問題<短期連載:狙われた大学入試―大学入学共通テストの問題点―>  もちろん、今後、現在指摘されている問題点が解消されたのであれば、共通テストに記述式を導入することの議論はあってもよいことです。
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教育をよくするためには、入試を変えるべき?
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