本質を見ていない、海外事例の一部だけを取り上げる批判
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意見7:
PISAの問題は、ジャレイドダイアモンドの文明崩壊から出題され、資料を読み込んだ上での記述式だったことを知っているのですか?
【回答】
細かいところを指摘するようですが、
「ジャレイドダイアモンドの文明崩壊」からの出題ではなく、その書物の書評とその対抗仮説について説明した記事からの引用です。
また、この意見のようにPISAを持ち出す人も少なくないのですが、現在では、PISAを採点する業者がきちんと採点しているのかを問題視している人もいます。PISAの採点は国内の業者が請け負っていますが、それについても共通テストの記述式と同じ問題があるのではないという指摘もあります。
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意見8:
フランスの大学入試「バカロレア」は記述式オンリーで、大問が3つあって、4時間、書いて書いて書きまくる試験です。採点は、高校教師が行っています。彼らは「採点基準があるから大丈夫だ」としか答えない。しかもバカロレアでは、1つの答案を採点者一人で採点するんだそうです。
【回答】
人を説得するときに、多くの人が知らない情報、持ちえない情報を持ち出して説得するのは、
悪意のある人の常套手段です。この説明が、そういうことでなければよいと思います。
まず、フランスの「
バカロレア」について説明します。「バカロレア」には、これとは別の「国際バカロレア(IB)」がありますのでご注意ください。ここでは、フランスのバカロレアについて触れます。なお、
バカロレアは日本で言えば大学入試全体に対応しますので、大学入試の「一部」である共通テストと比較することはそもそも適当ではありません。
少し古い資料ですが、2009年の時点で大学は私立も含めて94校(うち国立は86%)、学生は140万人でうち学部生が88万人、学部進学率41%という記録があります。2015年のデータでも148万人が大学に在籍しているそうです。ただし、フランスではグランド・ゼコールという大学以外の高等教育機関があるそうです。こちらは選抜があり授業料もかかりますが、優秀な人材はこちらも選択肢となるようです。
バカロレアは3種類(普通・技術・職業)あり、一週間かけて複数科目を受験します。普通バカロレアでも文学、経済社会、科学の部門に分かれており、部門によって科目が異なります。体育などで通常の高校での評価を利用したり、化学の実験など実技試験やフランス語の口述試験などが一部あるものの、ほぼ全科目が論述試験となっています。なお、バカロレアは、大学入学のための最終試験でもあるため、日本のセンター試験、共通テストよりもかなり高度な内容となっています。
2019年は6月17日から始まり約74万人が受験しました。年齢制限はなく、最年少記録は11歳であることからもわかるように、
日本の大学受検年齢までに何度でも受検ができます。今年の発表は7月5日でしたので、採点期間はおよそ2週間です。採点者は総勢17万5千人で、およそ400万枚の答案を採点します。この試験のために年度末の5月~6月に受験生以外の授業に支障が出ている状況なので試験数を減らしたり、筆記試験の比重を低めるという改革が行われ2021年から実施される予定だそうです。
バカロレアに合格すれば大学に入れるものの、大学に入学してからの進級などがとても厳しく留年や中退が頻発するため、進学率が高くならないのだそうです。また、どこでも自由に希望できるわけではなく、居住場所やその他の条件で優先順位があり希望者が定員を超過した場合は、優先順位が同じなら抽選により振り分けが行われるそうです。人気に応じた偏りが生じにくいのはこうしたシステムによるものと思われます。また、
フランスでは大学名よりも取得した資格を重視する風潮があるそうで、それも一つの要因かもしれません。
このような状況ですので、
日本の大学受験においてこの制度の部分だけを真似をするのはいかがなものかということになります。このようにするのであれば、全体を変えていき、大学の序列がないようにすることが先決です。
最後にもう一度、記述式が見送りになった理由と現在の問題点を確認しましょう。
•記述式導入が反対された主な原因は、50万人の答案を公平に採点されないことである。
•すべての数学と国語の試験に記述式が不要だと主張しているわけではない。
•今の大学入試センター試験(以下センター試験)がベストであると考えているわけではない。
※近日公開の続編では、「入試改革を失敗させた残念な人達」について述べます。
<文/清史弘>
せいふみひろ●Twitter ID:
@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。