山口敬之氏はニューヨークタイムズ記者の質問にどう答えたか?<信号無視話法分析>

日本外国特派員協会で会見をした山口敬之氏

日本外国特派員協会で会見をした山口敬之氏
EPA=時事

海外メディアから相次いだ厳しい質問

 2019年12月18日、元TBS記者・山口敬之氏から性暴力を受けたと訴えた伊藤詩織氏は民事裁判にて勝訴。一方、敗訴した山口氏は翌19日に日本外国特派員協会で開いた記者会見にて改めて身の潔白を主張した。この記者会見には多くの海外メディアが参加しており、「安倍政権に近い立場である山口敬之氏だからこそ逮捕状が取り下げられたのではないか、官邸が動いたのではないか」という主旨の厳しい質問が飛び交った。特にニューヨークタイムズ・リッチ素子氏は、過去に伊藤詩織氏に関する記事を書いたこともあり、事件当日の出来事から生じる疑問を率直に質問していた。  そこで本記事では、これまで国会答弁を視覚化してきた「信号無視話法」の分析手法によって、この記者会見におけるニューヨークタイムズ・リッチ素子氏と山口氏の約17分間に及んだ全ての質疑を視覚化する。具体的には、信号機のように3色(はOK、は注意、はダメ)で直感的に視覚化する。 ✳︎リッチ素子氏英語で質問したが、本記事では日本語通訳の内容を要約して記載する ✳︎山口敬之氏は日本語で回答しており、本記事では発言のまま記載する。 20191219山口敬之記者会見.配色ルール  リッチ素子氏の質問に対する山口敬之氏の回答を集計した結果、下記の円グラフのようになった。
20191219山口敬之記者会見.集計結果

20191219山口敬之記者会見.集計結果

【色別集計・結果】 ●山口敬之氏:赤信号67%、青信号24%、地の色8%  赤信号(質問と無関係、論点のすり替え)が7割近くを占めている。いったいどのような質疑だったのか詳しく見ていきたい。

意識のない詩織さんから同意を得られたはずがない。

20191219山口敬之記者会見.分析1 ニューヨークタイムズ・リッチ素子氏:「昨日の判示の判決を読むと、まず性的行為が行われた。そのとき、伊藤さんが酔っぱらって寝ていた。意識がなかったので同意を得られたはずがない。山口さんご自身が先ほどおっしゃったように、駅まで5分すら歩けない彼女と性的行為を行っていた時、山口さんは何を考えていましたか?  また、求職中の伊藤さんに対して山口さんは立場が強く、もともとパワハラが発生しやすい状況だった。仕事が欲しい伊藤さんが意識がなく酔っぱらっている状況で、ホテルで性的行為を行うことはパワハラにつながると考えませんでしたか?」  この質問に対する回答。 山口敬之氏:「えっと、モトコ・リッチさん、ご無沙汰しています。えーっと、インタビューさせていただいて、えー、「Japan’s Secret Shame」*という記事を書いていただきました。あのー、私のポイント、」 〈*「そのタイトルはBBC」と別の記者から指摘あり〉 山口敬之氏: 「違いました。彼女のタイトル、違いました。えーと、彼女のインタビューにお答えしたんですが、えー、かなり、えー、偏向した記事が出たことについて、非常に残念に思ってます。(赤信号)」  山口氏は質問者が過去に書いた記事が偏向しているという、質問と全く関係ない抗議を述べているだけであり、赤信号と判定した。また、その場で指摘されている通り、リッチ素子氏が書いた記事のタイトルを間違えて述べている。リッチ素子氏がニューヨークタイムズに掲載した記事は「She Broke Japan’s Silence on Rape」。山口氏が述べた「Japan’s Secret Shame」はBBCが放送した番組のタイトル。
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