山口敬之氏はニューヨークタイムズ記者の質問にどう答えたか?<信号無視話法分析>

「詩織さんは泥酔状態ではなかった」と主張

 さらに山口敬之氏はホテルに到着した後の伊藤詩織氏について話し始める。 20191219山口敬之記者会見.分析4 山口敬之氏:「で、えーと、私の部屋に連れていったら、伊藤さんは部屋に入るなり、えー、部屋でまず嘔吐をしました。その後トイレに駆け込んで、えー、そこでも吐きました。それで、そのー、嘔吐したものが彼女のブラウスを汚しました。で、えー、そのあと、そのブラウスは、えー、洗って干しました、私が。それが、あー、昨日の裁判の中で、そのブラウスが濡れている理由についての言及がありましたが、それは伊藤さんが吐いたからです。そして伊藤さんはそのあと私のベッドで、えー、おそらく2時間ぐらいお休みに、睡眠を取りましたそのあと2時間後、おそらく午前2時ぐらいに伊藤さんはトイレに立ちました。そして、戻ってきて、ミニバーのペットボトルをご自分でお出しになって、それを自分の手で栓を開けてお飲みになりました。その状態、その段階では伊藤さんは普通に喋っていて、普通に歩いていて、まったく酔った様子はありませんでした。(赤信号)  ですからリッチ素子さんのご質問にお答えするとすれば、泥酔している状態の伊藤さんと性行為が行われたわけではないので、その質問自体が、あのー、間違っている。(青信号)  で、意識を回復されてミネラルウオーターを飲んだ後、伊藤さんは自分が室内の複数の箇所で吐いたことについて、私に謝罪しました。これからあとに起きたことは裁判の資料をぜひ読んでください。私の証言があります。(赤信号)  ただ、私が言っているだけではなくて、私が泊まっていたホテルは比較的高級というか、高いホテルでミニバーの水も入っているものも、ご存じのとおり値段が高いんですね。その、おー、要するに私はそこに4日間泊まったんですが、その間でそのミニバーから消費されたのは伊藤さんが飲んだミネラルウオーター1本だけです。その領収書を私は証拠書類として裁判所に提出しています。(赤信号)」  この4つの段落のうち、実に3つの段落で論点のすり替えが行われており、赤信号と判定した。 ◆1段落目 【質問】酩酊状態の伊藤さんと性行為をした理由論点のすり替え 【回答】酩酊状態の伊藤さんのホテルでの行動 ◆3段落目 【質問】酩酊状態の伊藤さんと性行為をした理由論点のすり替え 【回答】意識回復後の伊藤さんのホテルでの行動 ◆4段落目 【質問】酩酊状態の伊藤さんと性行為をした理由論点のすり替え 【回答】宿泊ホテルの価格帯、ミニバーの消費内容  特に4段落目は「私が泊まっていたホテルは比較的高級」、「ミニバーから消費されたのは伊藤さんが飲んだミネラルウォーター1本だけ」など、質問とかなりかけ離れた内容を回答している。  また、2段落目は「酩酊状態の伊藤さんと性行為したことへの見解」を述べているため、青信号としたが、その見解とは「泥酔している状態の伊藤さんと性行為したわけではないので、質問自体が間違っている」という抗議に近い内容であった。

外国メディアに「措置」をちらつかせた山口氏

20191219山口敬之記者会見.分析5  最後に山口敬之氏は質問の②(求職中でしかも酩酊状態の伊藤詩織氏と性行為を行うことはパワハラになると考えなかったのか)③(2年前の記事が誤っているなら、なぜその時点で訂正を要求しなかったのか)についても回答を始める。 山口敬之氏:「「それで、えーと、次に、これ3つ目の質問か、4つ目の質問か分かりませんが、パワーダイナミクスの話をお答えします。えーと、今、ご説明したとおり、えー、伊藤さんは自分が吐いたことを謝罪して、そのあとの流れは裁判資料を読んでいただくとして、そこに私が、えー、支局長であることによって、「仕事をあげるからセックスをさせろ」とか、そういうやりとりは一切ございません。それは、まあ、こういう話をね、伊藤さんがいらっしゃっている前で、あるいは、えー、こういう場で、カメラの前で詳細を話すことは、私は、あのー、あまり良いこととは思えませんので、裁判資料をぜひ読んでいただけたら何が起きたか、私の主張は分かっていただけると思いますが。えー、答えを言えば、私が自分の立場を利用して性行為に至ったということではまったく無いと主張させていただいております。(赤信号)  で、4つ目の質問ですけども、えーと、おー、ニューヨーク・タイムズの、あの、あの、リッチ素子さんがお書きになったアーティクルについて不満がありました。ただ、あの、私の弁護士の指導により、今日までは、えー、あるいは昨日までは、法廷外で色々なアクションを起こすべきではないと指導されていました。ただ、もう判決が出ましたので、えー、その、リッチ素子さんの記事や他の、おー、報道についても私の名誉を毀損していると思ったものについては、今後、え、どのような措置を取るかは検討して発表いたします。それで質問をこれだけたくさん一遍にされますと答えるときに混乱を生じるので、1つずつ今後はお願いしたいです。(青信号)」  1段落目は論点のすり替えが行われており、赤信号と判定した。 ◆1段落目 【質問】就活中の伊藤さんをホテルに連れて行くことがパワハラに繋がると考えなかったか論点のすり替え 【回答】性的関係を強要する発言の有無  就活中の女性に対して山口氏は立場が強いことを指摘されているのに、「私が支局長であることによって、『仕事をあげるからセックスをさせろ』とか、そういうやりとりは一切ございません」という限定的な話にすり替えている。  また、2段落目は「2年前のリッチ素子氏の記事に今日まで訂正を求めなかった理由」を述べているため、青信号とした。「リッチ素子さんの記事や他の報道についても私の名誉を毀損していると思ったものについては、今後、どのような措置を取るかは検討して発表いたします」とのことだが、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、タイムズ、CNN、BBCなどの海外メディアがこの事件の詳細を日本メディアよりも率直に報じている中、山口敬之氏が一体どのような措置を取るのか(もしくは取らないのか)興味深い。 <文・図版作成/犬飼淳>
TwitterID/@jun21101016 いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。
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