この映画は、
“サイコパス(精神病質)”の恐ろしさを寓話的に描いているとも言える。
サイコパスの人間は、良心や共感性や罪悪感が欠如していたり、慢性的に平然と嘘をつくなどの特徴がある一方、口が達者で表面上は魅力的に見えることが多い。まさに、テッド・バンディは絵に描いたようなサイコパスなのだ。
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そして、前述したように映画の構造は、犯行シーンをほとんど映しておらず、テッド・バンディという人間そのものがとても魅力的に見え、だからこそ長年の恋人(またはマスコミや国民)の視点から疑心暗鬼になってしまうというものだ。つまり、全編で明確に
“サイコパスに翻弄される”ことを主題にしており、それこそが最大の恐怖につながっている作品なのだ。
もっと極端に言えば、この映画は「あなたのよく知っている人も実はサイコパス(殺人鬼)かもしれない」と、その危険性を訴えているのだろう。本質的に危険な人間は、一目見てわかるような者とは限らない。むしろ、テッド・バンディのように表面上では魅力的だったり安心できてしまう人間こそ、恐ろしい本性を隠しているかもしれないのだから。
事実、当時話題となったテッド・バンディはこれまでの殺人鬼のイメージを一変させた。その報道についての功罪は簡単には語ることはできないが、やはり「こういう人間が存在する」という事実は、知っておくべきだ。そのことを、当時にニュースを聞いていた国民、そして恋人であったシングルマザーの女性と同じ気持ちで、映画として体験できることにこそ、本作の意義がある。
なお、本作を手がけたジョー・バリンジャー監督は、こうした実録犯罪ものの映画を作るうえで、
犯罪の被害者に対してのリスペクトが最も重要であるとも宣言している。エンターテインメントとして成立させる以上に、倫理観をしっかり持ち合わせて映画が作られていることは、最後にある“テロップ”からでもわかるだろう。
さらに、そのジョー・バリンジャー監督は、Netflixで配信されているドキュメンタリー「殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合」でも監督を務めている。こちらは実際の証言などからテッド・バンディという人間そのものを解き明かす内容であるので、合わせて観てみるとより理解が深まるだろう。
おまけ:“サイコパスの殺人鬼”を題材とした映画3選
最後に、本作と合わせて観てほしい“サイコパスの殺人鬼”を題材とした3本の映画を紹介しよう。なお、いずれの作品にもショッキングな残酷シーンがありR15+指定がされているので、苦手な方は注意してほしい。
1.「ザ・ゲスト」(2014)
長男を戦地で亡くした一家のもとに、礼儀正しく容姿端麗な男がやって来るが、その異常性が少しずつわかっていく……というホラーだ。
危険な人間であると頭ではわかっているはずなのに、イケメンで魅力的に“見えてしまう”というのは完全に『テッド・バンディ』に通じていた。その男の“優先順位”がどのようなものであるかを想像すると、よりゾッとできるだろう。
2:「悪の教典」(2012)
容姿端麗・頭脳明晰・人望も厚い人気教師が実はサイコパスであり、次々と生徒と教師を惨殺していくというインモラルなサスペンスだ。
罪悪感がないどころか、ただ“目的のために邪魔だから殺す”という価値観を持ち、行き当たりばったりに殺人を犯していく主人公は、“理解できない”ことが何よりも恐ろしい存在だ。善人にしか見えない伊藤英明のキャスティングも見事としか言うほかない。
3:「サマー・オブ・84」(2017)
子供ばかりが狙われる連続殺人事件が発生している最中、15歳の少年が3人の親友とともにその捜査に乗り出すというジュブナイルサスペンスだ。
描かれているのは「隣人が実は連続殺人鬼なのかもしれない」という疑心暗鬼であり恐怖だ。「テッド・バンディ」と同様に「誰が恐ろしい本性を隠しているかはわからない」ということを痛烈に突きつけられることだろう。
<文/ヒナタカ>