伊藤詩織氏勝訴! 海外も注目していた裁判、海外メディアはどう報じたか

沈黙と同調圧力を強いる文化

 SNS上での誹謗中傷だけではなく、一部のメディアからも罵詈雑言を浴び続けた伊藤氏の苦しみは想像すらつかない。ましてや、法的機関すら頼りにならないのでは、声を上げる女性が少ないのも無理はないだろう。アメリカ『CNN』も今回の事件は特異なものではなく、日本社会全体の問題が表出したことを指摘している。(参照:CNN) “鈴木昭洋裁判長は「行為は彼女の意思に反して行われたもので、彼女には虚偽の訴えを行う動機がない」と判決について話した。「それに対して、山口氏の説明は何度も変化し、信用性に疑念が残る」” “伊藤が事件を警察に持っていったものの、山口は逮捕されず、刑事訴訟は棄却された。検察は昨年のCNNの取材に対し、個別の件についてはコメントできないと答えている。 “(世間からの)反応は協力的とは程遠かった。彼女は脅迫やソーシャルメディア上での反論を受け、自身と家族の安全を危惧したという。昨年、彼女は日本を離れたと話した” “彼女が事件を通報すると、警察が法的手続きをしないよう気を削いできたという。また、彼女は屈辱的な現場の再現もさせられたと語った。「私は床に寝転ばなければならず、カメラを持った3〜4人の男性捜査官が私の上に等身大の人形を起き、動かしながら写真を撮りました」”  さらに「より大きな問題」という見出しで、『BBC』と同じ調査結果を紹介している。 “伊藤の事件は日本では特異なものではない。統計的に日本は性被害の通報件数が極めて低い。2017年の内閣府の調査によれば、およそ13人に一人の女性がレイプされたことがあると答えたという。国立性暴力リソースセンターによると、アメリカでは5人に一人の女性が生涯のうちにレイプ被害に遭うという。  しかし、日本人女性はレイプされても、警察に話すことは稀だ。同じ2017年の調査によると、性暴力被害者の約3.7%しか警察にレイプを通報しないという。女性たちが表に出ないのにはいくつも理由がある。性被害には汚名がつきまとい、女性は被害に遭ったことを恥じることが多い。日本には伝統的に沈黙の文化があり、足並みを揃えることが求められている

時代遅れな法律

 同じアメリカの『ワシントンポスト』も指摘していることだが、世間の目がレイプ被害者に対して厳しく、現場での捜査にも問題がある以上、まず変えるべきは法律だろう。(参照:The Washington Post) “日本の時代遅れな強姦罪や、男性が支配する社会で性的不正行為について女性が申し立てるうえでの障害が浮き彫りになった事件” “警視庁は彼女に起訴させないようにしようとし、調書を取るうえで女性警察官を準備することもできなかった”  また、タクシー運転手の証言やホテルの監視カメラの映像が残っていること、逮捕令状が出されながら、突然上司からの指示で起訴が取り下げられたことなどについても触れられている。 “山口氏は当時TBSのワシントン支局長で、安倍晋三首相についての本を書いていた。2017年に行われた公聴会で野党議員から起訴の取り上げと山口氏と安倍氏の繋がりに関係があるかと質問があがったが、政府はそれを否定し、起訴するだけの証拠がなかったと答えた”  奇しくも判決が出たのは、日本がジェンダーギャップ指数121位であると発表された直後だ。伊藤氏が被害を訴えた直後から彼女を貶めるような報道をしたメディアや論客、不可解な動きを見せてきた公的機関は、自分たちがどれだけ彼女を、そして日本を傷つけているか振り返ってほしい。そして、ここ日本では性的被害者に責任を押しつける自分たちがマジョリティでも、世界ではマイノリティだと知るべきだ。 <取材・文・訳/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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