20年以上にわたり、世界の音楽界きってのイノベーターとして君臨し続けるレディオヘッドだが、そんな彼らが政治的論客でもあることを示した本作。タイトルの「泥棒万歳」が、1824年にアメリカ大統領選で当選したジョン・クインシー・アダムスの選挙違反疑惑が浮上した際の歴史的な風刺文句として知られるが、これがまず2000年のジョージ・ブッシュJrの大統領選時の疑惑(アダムスも2世大統領だった)への皮肉。
歌詞では「(暗算のような)常識が通用しないしない世の中に家でじっとしていられるだろうか」(「2+2=5」)、「君たちの世代が大統領になって善悪の区別がついたら、方舟で僕らを月に誘ってくれ」(「Sail To The Moon」)と、時のブッシュ政権下の世をひとつのディストピアとして憂いているが、むしろこれが、混沌とした21世紀の世のはじまりであったのかもしれない。
『American Idiot』Green Day(2004)
90sにロック界きっての政治的論客だったレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが21世紀に入ってすぐに活動休止。その後釜的な役割を期待された存在が、LAのアルメニア移民のコミュニティから生まれたバンド、システム・オブ・ア・ダウンだった。マイノリティとして育ったことゆえの強い疎外感と、オリエンタル風味を交えた独自のサウンドで彼らはその期待に応えたが、2005年のピーク時に時差をおいて出した2枚のアルバム『Mezmerise』と『Hypnotize』はとりわけ政治的な作品となった。
「メディア洗脳」を意味するタイトル曲を筆頭に、暴力やドラッグによる世の荒廃(「Stealing Society」「She’s Like Heroine」)、彼らの心の祖国アルメニアでの虐殺事件(「Holy Mountains」)、兵士の息子を持つ母の心情(「Soldier Side」)など、ここでは当時の911以降のアメリカの混乱が絶妙に綴られている。
『Taking The Long Way』Dixie Chicks(2006)
『Taking The Long Way』Dixie Chicks(2006)
ロックやヒップホップが体制への反抗を歌っても。それが当たり前となってしまった21世紀は、むしろ「保守の牙城」だったカントリーからそれが起こったことの方がショッキングなインパクトがあった。人気女性3人組のディキシー・チックスはイラク戦争勃発時に、戦争とブッシュを徹底批判。それは彼女たちに批判のみならず、スポンサーの撤退や、ときには殺人予告の恐喝までを受ける災難をもたらした。
だが、彼女たちは本作をそんなカントリー・ファンへの返答とした。それは「いい人をつくろうことも、後引きすることもしない」と歌った「Not Ready To Make Nice」を筆頭にした、より反抗的な曲の数々。「地元のボーイフレンドと出会って住所も変えずに生きるなんて生き方はしない」(「The Long Way Around」)で、カントリー・リスナーの典型的な因習的ライフ・スタイルを批判し、「代償ならこれからも払い続ける」(「Everybody Knows」)と過去との決別もした同作はグラミー賞の最優秀アルバム賞にも輝いた。