参議院議員が「地方代表」という誤解。人口比例選挙を実現すべきだ。<あべこべ憲法カルタ・第4回>

 WEBメディア「チャリツモ」が制作中の「あべこべ憲法カルタ」とのコラボ記事第4弾。今回ご紹介するのは『た』の札だ。この札は日本国憲法43条1項の「国会議員は全国民を代表する」という条文を説明した札だ。

【た】代表が 地元の声を 届けます

代表が地元の声を届けます この札のモチーフになっているのは、日本国憲法43条1項の条文。 【日本国憲法43条】 1項 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。  43条1項では、国会議員は「全国民」の代表であって、特定の団体や地域の利益代表ではないことを規定している。この条文の解釈について、憲法学の通説ともいわれる憲法理論を著した芦部信喜『憲法』の中では、国会議員について以下のように説明されている。 —————————— (1)議会を構成する議員は、選挙区ないし後援団体など特定の選挙母体の代表ではなく、全国民の代表であること、したがって、(2)議員は議会において、自己の信念に基づいてのみ発言・表決し、選挙母体である選挙区ないし後援団体等の訓令には拘束されないこと、すなわち(中略)選挙母体の訓令に拘束され、訓令を守らないと召還される命令委任(強制委任)は禁止されること、を意味する。(芦部憲法 第7版 303頁参照) ——————————  代表者は選挙を通じてできる限り全国民の意思を反映させればよいということだ。 代表者は全国民を代表する ところが実際には、私たち有権者は「国会議員とは、選挙区であるジモトの有権者のために働き、ジモトの利益にかなう政治を行うものだ」という認識のもと、自分たちの地域にとって都合のよい国会議員を選んでいないだろうか。  地方議会と異なり、国会は、地域的な課題から離れた安全保障政策や財政経済政策、社会保障政策、教育政策、そして憲法改正など国家的な課題を議論すべき場だ。「全国民の代表」といえるためには、個々の議員が選挙区や所属団体に拘束されず、幅広い民意を汲み取る能力を持ち、国会での議論を通じて国民の意思をできるかぎり反映してくれる人でなければならない。それが「全国民の代表である」といえよう。  ジモトの利権やしがらみに縛られず、少数の声にも十分配慮して熟議を重ねることができる資質のある人かどうかを見極める力が求められている。  さて、今回はこの「全国民の代表」という札をきっかけに、2018年の自民党「改憲4項目」に盛り込まれた「合区解消」について考えてみたいと思う。

参院選「合区解消」について検証する

 上述のように、国会議員が全国民の代表であるという規定に、相反するような改憲案が、2018年3月に自民党が発表した改憲重点4項目の中に含まれている。それが「参議院『合区』の解消」だ。  そもそも合区は参院選の投票価値の地域間格差を是正するために生み出された制度で、人口が少ない隣り合った選挙区をあわせて一つの選挙区とする区割りのこと。 投票価値の平等により近づけるために導入された制度ではあるものの、地方の政治家からは反発の声も大きい。自分の選挙区が合区の対象にされてしまうと、単純に議席が減って不利益を被るからだ。  現行憲法47条改正するこの改憲案は、参議院の選挙においては「各都道府県から最低1人以上の参議院議員を選出する」という内容で、まるで合区に反対する地方議員の要望に応えるような内容となっている。  まずは、現行の日本国憲法47条と、自民党の改憲案を見比べてみたい。 <現在の日本国憲法>  第47条  選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。 <自民党改憲案>  第47条  両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。/前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。  自民党改憲案の中では、選挙区において細かな指定が入っている。特に参議院議員選挙に関しては、広域地方公共団体(=都道府県)で1人以上を選出すると書かれている。  これまで公職選挙法にまかせていたようなことを、わざわざ憲法に明記する理由はなんなのだろう?  改憲4項目に詳しい法律の専門家によると「自民党の主たる目的は、自民党に有利な参議院選挙制度の創設を憲法上正当化することにある」とみる。すなわち、改憲により合区を廃止すると同時に、投票価値の不平等につながる選挙制度をとりいれ、なおかつ一票の格差訴訟を封じたいという意図があるというのだ。    改憲重点4項目の「参院選『合区』解消」の問題の根底にあるのは、これまで長年にわたってくすぶり続ける「一票の格差」問題だ。 一票の格差 ここからは一人一票実現国民会議の発起人の一人として、様々な活動に取り組んでこられた伊藤真弁護士の解説を踏まえつつ、さらに検証を進めよう。
次のページ 
一票の格差と合区
1
2
3
ハッシュタグ