ウザい上司と財布への負担だけじゃない。「#忘年会スルー」に見る職場コミュニケーションの変化

時代とともに変化する合理性

 結果、「#忘年会スルー」の解決方法などの考察が出回るのだが、「部下が行きたくなる忘年会を考える必要がある」「忘年会に参加しないという価値観の多様化を認めてあげる必要がある」などを取り上げている記事をいくつか見ることになる。しかし、そもそも問題のフォーカスを「忘年会」だけに置きすぎているのではないだろうか。  私は、この問題を世代間の「目的合理性」から「コミュニケーション的合理性」への合理性の変化にあると考えている。これは、ドイツの社会哲学者J・ハーバーマスによって提唱されたもので、お金・地位・権力によって人を動かそうとする「目的合理性」から、近代は相手とコミュニケーションを取ることよって相互理解を促して納得・了承によって人を動かそうとするコミュニケーションに基づく合理性に変化しているというものだ。  わかりやすい例で言うと、「上司の指示は従うべきである」という上下関係で人は動かなくなり、部下にも指示に従う・従わないを決める自由があり、動いてもらうには相互理解のコミュニケーションが必要だということだ。  かつての日本社会では、野球部やラグビー部のような「チームの勝利」という目的を持つ集団=運動部特有の先輩・後輩関係を経験している人間が、従来型の目的合理性に基づく社会構造の中で、それを理解し、適用するのが上手いため出世も早かったのはそのためだ。

問題の根底には一方通行の指示が

 「#忘年会スルー」問題も、役職による上下関係など昔から継承され続けている目的合理性に基づく職場環境になっているため、上司・部下の指示がコミュニケーションになっていないためではないだろうか。  目的合理性に基づく指示は、相手の合意を伴わないため、労働時間外の忘年会への参加も「義務」となってしまう。そうではなく、コミュニケーション的合理性に基づいた、相互理解が日常的に行われていれば、上司・部下の信頼関係も構築することができ、部下も忘年会に参加したときのイメージがしやすくなり、参加を促すことができるのではないだろう。  役職やお金(給与や残業代)に基づく指示ではなく、相互理解のためのコミュニケーションを日常的に実施していただきたい。 【参考文献】 『コミュニケイション的行為の論理 上・下』ユルゲン・ハーバーマス <取材・文/山本マサヤ>
心理戦略コンサルタント。著書に『トップ2%の天才が使っている「人を操る」最強の心理術』がある。MENSA会員。心理学を使って「人・企業の可能性を広げる」ためのコンサルティングやセミナーを各所で開催中。
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