「共通テスト記述式導入反対論」への難癖はここがおかしい。センター試験も知らずに政策決定する愚

政策決定者は、もっとセンター試験のことを深く知るべき

 さて、共通テストの記述式の問題点は、最近知った方にとってはわかりにくい問題なのでしょう。  それは、「記述式」という言葉の響きに多くの期待をもたせてしまうからかもしれません。この共通テストの「記述式」については、歴代の文科大臣さえもよく理解していないのではないか(個人の感想です)と思えることもあります。少なくとも政策決定者は、共通テストの試行調査の問題を解くくらいのことは実行してもらいたいと思います。もちろん満点をとらなければならないわけではありません。  なお、今現在、およそ60代以上がこのような全国の共通テストは未経験であり、50代が共通一次世代、それ以下がセンター試験世代です。政策決定者が50代の場合、国立大学を受験する場合は共通一次を受けることになりますが、この共通一次と今のセンター試験では質の面でかなり異なるので、共通一次試験をイメージして政策を決めると誤った判断になります

センター試験を受けたことのない安倍政権下の歴代文科相

 参考までに、安倍内閣における文部科学大臣とセンター試験受験の可能性をまとめてみました。  次の表は、2012年12月に発足した第2次安倍内閣以降の6人の文部科学大臣と大学入試センター試験を受検した可能性です。1979年~1989年までは厳密には共通1次試験(大学共通第1次学力試験)として実施されており、この6人の大臣は全員がこの共通1次試験かそれ以前の世代にあたります。  共通1次試験は私立の大学には課せられません。しかし、入学した大学が私立大学であっても国立大学を受験した可能性はありますのでそのような場合は、「受けた試験」の欄には、括弧()つきで、(共通1次試験)と記してあります。各大臣がどの大学を受験したかについては手に入りにくい情報ですので、そのように記してあります。 氏名/生年月日/就任した期日/入学した大学と学部/受けた試験 下村博文/1954年5月23日/2012年12月26日/早稲田大学教育学部/(共通1次試験以前) 馳浩/1961年5月5日/2015年10月7日/専修大学文学部/(共通1次試験) 松野博一/1962年9月13日/2016年8月3日/早稲田大学法学部/(共通1次試験) 林芳正/1961年1月19日/2017年8月3日/東京大学文科1類/共通1次試験 柴山昌彦/1965年12月5日/2018年10月2日/東京大学文科1類/共通1次試験 萩生田光一/1963年8月31日/2019年9月11日/明治大学商学部/(共通1次試験)  このように、各大臣経験者が今の共通テストを体験していないのは明らかですが、遅くはありません。なぜセンター試験を変えなければならないか、共通テストはどのような試験になってしまったかについては、今からでも十分に研究すればよいことです。少なくとも問題文を読んで考えるところまではやっていただけたらと思います。  この大学入試改革は、人口減少社会において、学生募集に苦労した大学が、AO入試あるいは推薦試験などと称して事実上の無試験で入学できるような大学、いい加減な募集をする大学が増えたことも発端の一つでした。それを改革しようとしたことはよいことだと思いますが、途中から真の専門家の意見よりも民間業者を優先ししたことが現在地に到着した理由です。今一度、真の専門家を集めなおして、もう一度しっかりと意味のある実行可能な制度を作っていくことが望まれます。 <文/清史弘>
せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 
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