鹿児島県の一漁協が、日本一の養殖ブリ、「鰤王」で世界に挑む

「産地」のブランディングで売り込む

JF東町のブース

「JAPAN FOOD ONE 2019」に出店したJF東町のブース

「鰤王」のタイ進出を提案したのは、タイと日本を「食」で繋ぐことをテーマにしたNPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHENだ。代表理事の西田誠治氏は2010年から日本の47都道府県の農産物などを、タイ料理を介して紹介をしてきた。今も精力的に産地取材やPRイベントを日タイ両国で開催しており、毎回自治体を巻き込んだ食のイベントは各方面から注目される。
JF東町が用意した刺身と寿司

JF東町が「鰤王」のPRに用意したのは、タイ人にもわかりやすい刺身と寿司。

 そんな経験もあり、西田氏はいち早く「鰤王」のポテンシャルがタイ人の嗜好にマッチすると考えた。タイ向けに海外販路を開拓したいJF東町は今年5月に早速、西田氏の協力の下、バンコクの食の最新動向を視察している。その結果が6月の初出荷に繋がった。 「タイではブリとハマチの違いがあいまいです。認知度の高いハマチも『日本産』とひと括りにされ産地がよくわからない。つまり、和牛とするのではなく神戸牛、というようなブランディングが魚介類ではほとんどされていないのが現状です。進出ロードマップを実行するにあたっては、ブランディングを同時に行うことで商機があると見て、『タイ市場向け』にロゴのデザインやネーミングを変える提案をしました」(西田氏)
タイ向けに考案されたロゴ

「鰤王」のロゴもタイ向けに考案した

「JAPAN FOOD ONE 2019」の中で、実際に鰤王を試食購入をした213人ものタイ人にアンケート調査もJF東町と西田氏が行った。そこでブリとハマチの認識を正し、タイ人の好む脂の乗りや旨さを訴求すれば、「鰤王」は必ずタイ国内で認知されるという確証を得た。

「鰤王」、今後の大ヒットの可能性

JAPAN FOOD ONE 2019

「JAPAN FOOD ONE 2019」は佐野ひろさんの人気もあって、バンコク中心部のイベントより盛り上がった

 この「JAPAN FOOD ONE 2019」はタイのテレビ番組で日本を紹介する、タイ人に人気の日本人俳優でタレントの佐野ひろさんの主催イベントだ。日本政府の支援があって開催されるバンコク中心部でのイベントにも活気では勝った。訪問者が多かったのは、日本と同じように、ローカルは中心部ではなく近郊に暮らすことも一因でもある。同時に、和食の定着、それから商業施設の発達で都心と同じものが近郊以遠でも買えるようになり、その辺りに住む人が休日に都心に行かなくなったことも活況の理由に挙げられるだろう。
大人気で品切れに

最終日は閉幕を待たずして、すでに棚に商品は残っていないほどだった。

 寿司や刺身などが300バーツ(約1050円)と、タイの物価指数から見ると割高ではあるが飛ぶように売れ、最終日は終了時間を待たず数時間前には完売となった。週末には会場内のステージで解体ショーも披露。その際、正解者に刺身や寿司を1バーツでプレゼントするクイズ大会も行い、答えがすべて「鰤王」になるよう工夫してタイ人の印象に残るようにもした。
「鰤王」解体ショー

「JAPAN FOOD ONE 2019」の土日に開催した「鰤王」解体ショー。(写真:NPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN)

「鰤王」ブース

「鰤王」ブースにはたくさんのタイ人が訪れた。(写真:NPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN)

 日本で養殖し、タイに空輸するとなれば確かに今後も価格的に割高になることは避けられない。しかし、タイでは「良質なものは高額」という認識・意識が当たり前であるので、買う人は値段を気にせず買ってくれる。すべてのタイ人に「鰤王」を届けることは難しくとも、購買ターゲットをある程度以上の所得層に向ければ大ヒットも夢ではない。これからは水産・農産物も出荷先は日本国内だけでなく世界に向けるひとつの例になることだろう。
専用醤油

より「鰤王」をおいしく食べるための専用醤油もJF東町と蔵元で開発した

<取材・文・撮影/高田胤臣>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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