トンブリ機関区で整備が行われようとしているC56蒸気機関車(11月3日撮影)
タイは親日国ではあるが、第2次世界大戦時に旧日本軍がタイ国内に駐留していたこともある。バンコクから西におよそ120キロのカンチャナブリ県では連合国軍兵士たちが捕虜になり、地元民たちと共に泰緬鉄道の建設にかり出されていた。労働環境は過酷で、死者も多く、今でもカンチャナブリにはそのときに亡くなった米英の兵士たちの墓がある。
このときに建設されたクウェー川鉄橋を舞台にした映画『戦場にかける橋』が1957年に公開された。この映画の原作小説は、かの有名な『猿の惑星』の原作者ピエール・プールだ。現在、このクウェー川鉄橋はカンチャナブリ県筆頭の観光地として知られ、多くのタイ人や外国人が観光で訪れている。元々、この橋が架かる川はメークローン川という名称だったが、映画で有名になったことでクウェー・ヤイ川に改名されたほどだ。
クウェー川鉄橋の全景。この辺りの川面に舞台が設置される
そんなカンチャナブリでは県が主催する祭りが毎年開催されている。特に今年は「平和碑文としてのクウェー川鉄橋」というタイトルで、光と音を駆使した6部構成の演劇も披露される。川の上に舞台を設置し、1200席を設けた会場で上演され、ハイライトは
日本製の蒸気機関車C56形機関車がクウェー川鉄橋を走行する。演劇はカンチャナブリの歴史などが演目で、一部には日本軍の様子なども描かれる。日本人としても見所がいっぱいだ。
祭り以外の日にはトロッコ列車がクウェー川鉄橋を走る。徒歩で渡ることも可能
タイは第2次世界大戦時、終戦直前まで日本と同盟国だった。タイの周辺国はヨーロッパ列強国に植民地化されていたが、タイは独立を保ってきた。タイは昔から外交に長けていたこともあり、列強国から自らを守り、また日本とも同盟を組んだが、水面下では連合国と繋がり、日本劣勢と見るやすぐさま連合国側とコンタクトを取り、敗戦国になることも免れている。
タイが独立を保ってきた外交術の材料のひとつが鉄道だった。カンボジアを支配下に置いたフランスやビルマ(現ミャンマー)の英国を相手に、
タイ国内の鉄道使用を材料に交渉していたとされる。また、戦後、日本が食糧難になり、アメリカが日本に配給するための米をタイから調達した。そのときに使われたのが蒸気機関車だ。戦時中に日本が持ち込んでいて連合国に接収された機関車が使われたり、タイ米と物々交換で蒸気機関車が新造され、タイに納入されたのだ。
タイ国鉄にはそのころに手にした蒸気機関車が残っており、今現在、
5両が動く状態で管理されている。国鉄やタイ国の祝日などにその蒸気機関車を使ったイベントが開催され、タイ人にも人気のキップだ。今回、カンチャナブリのイベントに使われるC56形も1935年からタイで使われている機関車になる。車両に設置されているプレートを見ると、日立製で、
1982年まで現役で走っていたそうだ。
以前の情報が不足しているが、少なくとも2018年は同イベントでC56形は走っており、今年もカンチャナブリ県の祭りを彩ることになる。普段はバンコク西部を流れるチャオプラヤ河に面した国鉄トンブリ駅の機関区に置かれ、今回のイベントのために11月頭には整備が始まっていた。
当時のまま木炭で走るC56型の運転台は昔ながらの雰囲気
ただ、C56形は2両あるものの、両方とも当時のまま
木炭を燃料としている。そのため、現在は馬力が不足していて、バンコクからカンチャナブリまではディーゼル機関車が補助で牽引した。イベントでは自力走行するので、予定通りであれば、光の演出と共に昔のままの姿を見ることができる。