母国の送り出し機関、送り出し会社との契約、日本の第2次受け入れ機関との労働契約、それぞれの組織同士の契約によって技能実習生はがんじがらめになり、自由を奪われてしまっている状態なのだ
「賃金が安い、住環境が悪い、人権侵害。この構造が、技能実習制度が始まった’93年からずっと変わっていない。トイレの回数で罰金を取る社長、体調を崩した女性の実習生の布団に潜り込む社長、多くの社長を見てきましたが、みんな見た目は優しそうな普通の人で、見るからにヤクザみたいな人はほとんどいません。
技能実習制度という歪な制度がじわりじわりと彼らの倫理観を壊してしまった」
「先進国である日本から途上国への技術移転」という、見せかけの名目が、「低賃金でこきつかってもいい」という雇用者側の意識を生み出してしまったのだ。
中国人技能実習生の長時間労働、低賃金が当たり前となっていた縫製工場の作業場の様子
「悪影響はほかにもある。
技能実習生を3年で使い捨ててきたせいで、現場で技術を引き継ぐ担い手がいなくなり、技能実習生だけでは担い手不足が補えなくなってしまったんです。経営者団体から声が上がり、今年4月に『特定技能』(新設された在留資格で、14の分野に限って外国人の単純労働が認められた)が始まりました。ただ、これも技能実習の延長でしかなく、歪な構造はそのまま。『非熟練労働者』のビザをつくり、きちんと労働者を受け入れるだけでうまく回るはずなんですけどね」
建設業に従事するベトナム人実習生は「会社からの暴力に耐えられない、騙された」と怒りを露わにしていた
外国人労働者が増加したせいで犯罪が増えているという報道が散見されることにも鳥井氏は疑義を呈す。
「それは完全なミスリードです。
刑法犯検挙件数に占める来日外国人犯罪の件数はこの30年低い水準で推移しています」
刑法犯検挙件数に占める来日外国人犯罪の件数は’05年以降減少している(警察庁刑事局組織犯罪対策部発表資料より)
失踪した技能実習生が犯罪を起こすケースも確かにあるが、そもそも劣悪な労働環境から逃げ出した被害者が加害者になるケースが少なくない。理由がどうあれ殺人が許されるわけではないが、’06年に木更津の養豚場で起きた技能実習生による殺人事件では、被害者の第1次受け入れ機関の理事が、送り出し機関の実質的社長もしており、両側からカネを抜いていた事実が明らかになっている。
’06年に木更津の養豚場で起きた殺人事件は、渡航費用の二重取りなど被害者側の実態も明らかになった(写真/産経新聞社)
「労働と生活は分離できません。
外国人労働者を受け入れるのなら、単純に労働力とだけ見なすのではなく、彼らの日々の暮らし、生活環境を整えるのが当然の責務のはずです」
少子高齢化による人手不足、デフレ、価格競争を勝ち抜くための下請け企業への買い叩き、技能実習制度の歪な構造……日本経済が抱えるさまざまな問題のしわ寄せがすべて技能実習生にいってしまっているのだ。
【鳥井一平氏】
NPO法人・移住者と連帯するネットワーク代表理事。30年以上にわたって外国人労働者の支援、救済活動に携わってきた