山口博氏
山口:「専門性を発揮するスキルは、リーダーシップスキルとして転用できるのですね。そのスキルを身につけるために、若手研究者が早い時期から高めておきたいコアスキルのようなものがありますか」
中原:「伝える力だと思います。『何故プロジェクトの魅力が伝わらないんだろう?』『何故メンバーは動かないんだろう?』、『相手の理解度が足りないのだから、もうこれ以上説明しても仕方がない』と思うのではなく、『相手は何を求めていただろうか?』『相手の要求にこたえる準備を自分はしていただろうか?』『こういう説明の仕方をしたら相手の理解は変わっただろうか?』と相手の立場で考え、伝える力を高めることは色々な場面で役に立つと思います」
山口:「同感です。中原さんは、伝える力を発揮するプロセスを3つに分解しましたが、この考え方は、まさに私が提唱している、モチベーションファクターを梃にした分解スキル反復演習型能力開発プログラムの骨格です。
私は、日本のビジネスパーソンがいつの間にか、スキル訓練を忘れてしまったと思えてなりません。身に付けたいスキルをパーツ分解してコアスキルとして見極めて修得すれば、コアスキル同士を連動させやすくなったり、組み合わせが容易になります。それは、技術者・研究者と組織のリーダーという、二者択一を迫られるという領域においても、スキルの転用を可能にするのだと思います。若手のビジネスパーソンや学生に対して、伝えたい思いを聞かせていただけますか」
中原:「『応用問題に取り組む準備は出来ていますか?』と申し上げたいです。業界を問わず、時代が求めるスピード感はさらに早まっています。既存の専門性からのシフトや撤退を余儀なくされることも多いかと思います。
しかし、ひとつのテーマを紐解いて探求する力、敢えて“科学力”と呼ばせて下さい、それを後押しする“情熱”、そして客観的に自らの考えを“伝える力”を意識して取り組んできた経験は、必ず次の新しい挑戦で皆さんを後押ししてくれると思っています」
山口:「やはり、スキルは転用できるんですね」
中原:「『そんな経験はまだ有りません』という方も心配には及びません。今あるいは次の新しい挑戦をご自身の専門性を磨く機会にしていけば良いのです。多様性が増し、応用問題の解決が求められる時代において、皆さんそれぞれの専門性で培った経験を柔軟に役立ててみては如何でしょうか」
<対談を終えて>
専門性を発揮するための真理を探究する論理的思考を発揮するスキルは、組織共通の課題の原理を見極め、さまざま手段や専門性を組み合わせて発揮するリーダーシップに役立つと中原さんは言う。私はこの考え方に同感だ。
パーツ部分に分解して、その組み合わせや連動の仕方を見極めることは、科学力を発揮する領域でも、組織をハンドリングする立場においても、そしてスキル向上のためにも有効なのだ。(モチベーションファクター株式会社 山口 博)
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第163回】