忘れられた台風19号の被災地、福島。厳しい冬を前にボランティア足りず

いわき市の避難所での炊き出し

いわき市の避難所での炊き出し

ボランティアの方の数がまったく足りていません。浸水した家屋の清掃作業のスピードをもっと上げていかないと、東北にはこれから本格的な冬が来るので、被災者がかなりしんどい状況になるかもしれません」  台風19号の被災者支援のため福島県いわき市に入ったピーボート災害支援センター(PBV)の事務局長、上島安裕さんは危機感を募らせる。  上島さんはこれまで、東日本大震災や西日本豪雨災害を始め、さまざまな被災地の支援を手掛け、駆けつけた多数のボランティアをオーガナイズしてきた。経験豊富な彼が、今回の厳しさを訴える。

ニーズに十分応えられていない現実

 台風19号により被災したエリアは広域で、浸水や損壊などの被害を受けた建物の数はおよそ8万4000棟に及び、東日本大震災に次ぐ被害となった。福島県に限っても、床上浸水は1万2000軒以上にのぼる。そのうちおよそ5000軒はいわき市だ。  しかし、被害が広範囲に及んだことや福島の報道が少なかったこと、また西日本から来るボランティアにとっては長野県の方が近いことなどが重なり、福島を支援するボランティアの数は少ないままだ。  堤防が決壊して大量の泥が町中に流れ込んだいわき市では、いまも屋内に15センチも泥が堆積している家もある。また、水に浸かった材木や断熱材にはカビが生え、健康被害につながるリスクも高まる。家の外には分別されていない家財の山が高く積み上がっている状態だ。
人手不足のため片づけられず、山となる災害ゴミ

人手不足のため片づけられず、山となる災害ゴミ

 高齢者が1人や2人で住んでいる世帯では、泥が重くて搬出できず、タンスなどの家具も運べない。仮に運べたとしても、近所の災害廃棄物の仮置き場は満杯で、遠くまで運ばなければならないなど高いハードルがある。  経済的に厳しければ業者に頼めず、家をそのままにして、カビが綿毛のように漂う家の二階にそのまま住んでいるケースもある。特に低所得の人たちは、被災したことでわずかな資産を失い、おまけに体調を崩せばさらに追い詰められる可能性もあるだろう。  ピースボート災害支援センターでは、いわき市の社会福祉協議会と連携して、浸水した各家庭を回り、ボランティアチームを派遣して大量に溜まった泥を外に出し、カビの発生する家屋の清掃をしている。水害が起きると家全体にカビが発生することを知らない家主も多く、講習を実施して自分で清掃できる人には道具を貸し出している。  泥出しや清掃といった被災者からのニーズは、いわき市全体で776件ある(11月8日現在)。上島さんによると、その数のリクエストに適切に応えるためには、平日で500人、週末で1000ほどのボランティアが必要だ。しかし、現実にはその4分の1程度しか集まらないため、現状では300件以上の家に手がつけられていない状態だ。

ボランティアにスキルは不要、できることは必ずある

泥や浸水した家財を家の外に出す

泥や浸水した家財を家の外に出す

「ボランティアというと敷居が高く聞こえるかもしれないが、決してそんなことはない」と上島さんは言う。 「うちのボランティアの拠点では、宿泊場所や装備品を準備しているので、気軽に来て欲しいです。あれこれ考えるより、まず一回足を運んでもらえれば、自分にもできることがこんなにたくさんあると気づいてもらえるはず。できれば寒さが本格化する前、年内に一度来てもらうのがいいですね」  ボランティアに興味のある人はどうしたらいいのか。ピースボート災害支援センターでは、最低3日間滞在できる人を対象に受け入れている。1日では作業を覚えるだけで終わってしまうためだ。交通費は出ないが、道具などを持ってくる必要はなく、宿泊場所も準備されている。  家屋清掃のほか、避難所での炊き出ししや物資の配布などが中心で、特別なスキルも必要ない。「ピースボート災害支援センター」のサイトから問い合わせを。1日しか都合がつかないという人は、いわき市災害ボランティアセンターのサイトから短期のボランティアに申し込むことができる。  また、台風19号の被災地全体を確認したいという場合は、「全社協 被災地支援・災害ボランティア情報」のページで情報をチェックできる。
次のページ 
議論もいいが、目の前で困っている人を助けてほしい
1
2