俳句会の新潮流、「アウトロー俳句」がはみ出し者を救う
2019.11.11
季語を知らなくても、定型(五七五)になっていなくてもOK。心に抱えたやるせない気持ちを俳句に込めて詠み明かす「アウトロー句会」。俳句界の新潮流が、現代の疲れた人々の心に救いの手を伸ばしている。
混沌とした新宿・歌舞伎町の路地裏に、「砂の城」と名づけられた小狭いサロンがある。ここには、今日も心に闇を抱えた男女がどこからともなく現れ、心の赴くままに俳句を詠んでは去っていく。彼らは、歌舞伎町の俳句一家を名乗る「屍派(しかばねは)」。俳句界に“アウトロー俳句”という新たなジャンルを確立し、現在メディアで注目を浴びている異端者たちだ。
「砂の城」では、毎週金曜日に句会が開催されている。そこでは、まず「お題」と10分間の投句時間が与えられる。参加者は投句用紙に俳句を書き、座の中央にある日本酒の空き箱に次々と投句していく。投句が終われば、すぐさま披講(詠み上げ)と講評に移るのが、屍派の句会だ。
砂の城の管理人で屍派家元を名乗る北大路翼(きたおおじつばさ)氏はこう語る。
「一般的な句会であれば、投句された句は別の人物により清記(書き写し)されて、誰が投句したのかわからないようにして披講されます。でも屍派は速度感・ドライブ感を大切にしているので、清記はしません。人数にもよりますが、作るのに10分、講評10分、酒・タバコ・トイレで10分、計30分ぐらいが一回の句会にかかる時間。これを一晩で5~10回行います」
時間内であれば何句でも投句していいという。また、ツイッターの生配信でネット投句も受けつけているため、すべての句を披講・講評するにはスピードが重要だ。
「リアルタイムで配信して、全国から投句が集まる。こんな句会は日本で唯一でしょう。遠方や病床にいる常連もいますよ」(北大路氏)
この日の句会1回目のお題は「嫌な思い出」が挙げられた。
「受話器から自傷行為の音がする」
ランダムに決められるその日の進行役が、句を詠み上げる。
「相当大きい音だな」「どういう音がすんねん」「頭打ちつけてるんじゃないの?受話器に」「受話器よりも、今使うのはスマホなんだけどねえ」。参加者たちは思い思いの言葉で、詠み人の心の内を探る。
「まあ、受話器のほうが聞こえはいいかな」
最後に北大路氏がコメントしたところで講評は終了。詠み人が発表されると、すぐに進行役は次の句を詠み上げる。
「卒業アルバム嫌いな顔に穴開ける」
「『卒アルの』のほうがいいんじゃないの」「俺もそう思う。音がね」。
このようにして、句会は淡々と進んでいく。2回目のお題は「口(くち)の字」。
「そぞろ寒ざむ口約束をして口と指」
この句には、さまざまな解釈が寄せられた。「口約束と指切りをしたんじゃない」「口に指つっこんで出したら涼しかった、とか」と分析をする者もいたが、ほとんどが「全然意味がわからない」と言う。
この句の詠み人は北大路氏だった。彼らは主宰者にも容赦なくダメ出しを食らわすのだ。北大路氏とて反論することは許されない。
「俳句は、受け取る側がどうとらえたかがすべて。詠み手がどんな深い思いを込めていたとしても、伝わらなければ意味がない。また、一般の句会では、詠み人がわからないと『主宰者だったらどうしよう……』と気を使ってしまい、褒める言葉しか出てこない。句会は勉強会。ウチでは誰の句であろうと遠慮なくダメ出しします」
季語も五七五も不要!?「アウトロー俳句」がはみ出し者を救う
まずは「嫌な思い出」をお題に
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『半自伝的エッセイ 廃人』 人生すべてが俳句の種—— 新宿歌舞伎町を詠むアウトロー俳人・北大路 翼、 初のエッセイ集‼ |
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