裁判中に李君は、逮捕の直前まで江戸川区新小岩にある自宅に住んでいたと話していた。駅から歩いて15分ほどの住宅街で、歩いている人には中国人が多いようだった。たまたま近辺を歩いていた中国人夫婦に李君の名前を聞いてみる。
「李って苗字はいっぱいいるから同じか知らないけど、うちは中国人の留学生専門の下宿をやっていてね。李って人も最近までいたよ」
庭にあふれるアルミ管。下宿部屋の中国人オーナーは廃品回収業を営んでいると思われる。
夫婦によると、「李君は恰幅がよかった」というので別の人だとは思うが、聞くところによるとこの辺には同じような下宿がいくつかあるらしい。夫婦と一緒にボロボロの下宿に入り、鍵のついていない狭い部屋を開けてみると、散らかった床にベッドが2つ置いてあり、中国人の若者が眠そうな目をこすりながらこちらを見ている。李君もこんなふうに日々を過ごしながら、いろいろなことを考えていたのだろうか。
裁判官が「今後も日本には来たいと思うか」と問うと、「日本にはもう来ません。もう来たくありません」と、李君は答えた。判決は懲役1年の執行猶予3年。李君はこれから強制送還となる。どうか、母国の中国では明るい顔をしていてほしいと願うばかりだ。
<取材・文/國友公司>