サービスエリアで休息を取るトラック(筆者撮影)
「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。
前回までは、「荷主第一主義」の弊害を
前編・
後編に分けて紹介したが、今回からは「
運送業界の働き方改革とドライバーの給与形態」について、前編と後編に分けて述べていきたい。
2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」。
その機運が高まったのは
2013年、日本政府が国連の社会権規約委員会から、長時間労働や過労死における防止対策の強化を求める勧告を出された頃だろう。そこに、有名企業社員の自殺や過労死などが相次いだことで、政府も本格的に動きだした。
その結果、今や「24時間戦えますか」と問いかけるひと昔の人気CMは、「なんだそのブラック思考は」と全くもって理解されなくなり、逆に会社から「早く帰れ」と促される「時短ハラスメント」が労働者を苦しめるという皮肉も起きている。
そんな世間の「働き方改革」と一線を画しているのが、他でもない「運送業界」だ。
2019年8月の厚生労働省の発表
「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(平成30年)」によると、前年に実施した監督指導で、トラックドライバーを使用する事業所
5,109か所のうち、実に83.6%にあたる4,271か所で労働基準関係法令違反が見つかったという。
その中で最も多かった違反は、
「違法残業などの長時間労働」で3,013か所。次いで、
「割増賃金の未払い(未払い残業代)」が1,071か所だった。
運送業界において、この「長時間労働」と「未払い残業代の発生」は表裏一体の問題である。
ゆえに、この長時間労働をなんとかすれば、未払い残業代の発生も抑えられるはずなのだが、逆を言えば、長時間労働を何とかしない限り、この未払い残業代の問題は絶対に消失することはない。
これほどまでに多くの運送企業が、ドライバーへの「長時間労働」や「未払い」における労働基準法を守れぬ状況に陥った大きなきっかけの1つに、
1990年の「物流二法」の施行によって生じた規制緩和がある。
簡単に言うとこれは、
業界に競合他社や多重下請け構造を必要以上にもたらし、荷主への過剰サービス・価格競争、そして前回紹介したような、行き過ぎた荷主第一主義などをも生じさせた、「物流業界の大事件」だった。
そのためドライバーの長時間労働は、もはや各運送企業だけではどうすることもできない課題であるのだが、荷主とのパワーバランスや、競合他社の存在に加え、物流業界全体が「古い商習慣」で繋がっている現体制では、運送企業も荷主に「協力してくれ」とは強く言い出せず、いつまでたっても改善されない状況にある。