長時間・未払い残業が横行する運送業界。法律、荷主・元請けとの付き合いのしわ寄せは現場のドライバーに

他業種と比べても異常なドライバーの労働時間

 トラックドライバーの労働時間の長さは、他業種に比べても異常だといえる。  今年4月に施行された「働き方改革関連法」においても、他業種の時間外労働上限が年間720時間へと順次適用される中、トラックなどの自動車運転業務においては、「人手不足と過酷な労働環境の改善に時間を要する」という判断から、年間960時間と、他業種より規定時間が240時間も長く、適用までにも2024年までの5年間という猶予が与えられたほどだ。  荷物の積み降ろし、検品・仕分け作業などといった「オマケ仕事」のせいで、自分の作業時間が増えるだけでなく、時間通りに到着しても前のトラックの作業待ちに3時間以上待たされることもザラ。  しかも、荷主都合による荷待ち時間に対しては、トラック運送事業における適正な運賃・料金の収受に向け、国土交通省が2017年から「待機時間料」を規定したにも関わらず、支払いはおろか、荷待ち時間短縮に向けた改善努力すらなされない現場が非常に多いのが現状なのだ。

休憩時間・拘束時間の改善基準も7割弱が違反

 そんな長時間労働・拘束を制限するものとして、トラックドライバーには、一般的な「労働基準法」以外にも「改善基準」なる特有のルールがある。  これは、「4時間走行したら30分休憩」、「拘束時間は原則1日13時間以内。最大16時間以内で、15時間を超えていいのは週に2回まで。1か月の拘束時間は293時間以内」などと定めているものなのだが、先の労働省発表の調査結果では、事業所5,109か所のうち66.9%%に当たる3,419か所で改善基準告示違反があった。  中でも度々起こるのが、「休息時間」と「拘束時間」のうやむやな扱いだ。  その日のうちに自宅へ帰れないことが多い長距離トラックドライバーなどには、勤務と次の勤務との間、「原則連続8時間以上の休息を取らねばならない」という決まりがある。  が、一部の業者の中では、「荷待ち時間」をこの「休息時間」とカウントしたり、業界で一般的な「みなし残業代」に対して、一定時間を超えた分の残業代を、休息時間と曖昧にして支払わないケースが横行しているのだ。  この件に関して、SNSや現場のドライバーに彼らの給与事情を聞いてみたのだが、意外にも、各々所属する運送企業のこうした「ごまかし」は、ドライバー本人たちも気付いているという。  しかし、会社に「計算方法が違うんじゃないか」とは、こちらも立場上やはりなかなか言い出せないとする人や、言いに行ってもはぐらかされたとする人がほとんどで、今回、多くのドライバーが、こちらから頼まずとも「こんなことがまかり通っていいのか」と、給与明細の写真を送ってきてくれ、その不満や憤りの大きさを垣間見た。  国が定めた法律や、荷主・元請けとの付き合いも無視できず、現場と板挟みになるのが常である運送企業。その苦労は計り知れないものがあるが、こうした深刻な影響を直に受けるのは、他でもない「現場に足を運ぶ自社所属のトラックドライバー」であることを忘れてはならない。 <取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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