独立系人権団体やメディアもミャンマー軍の残虐行為をめぐり、数々の証言などを入手しています。ところが
日本政府は、ミャンマーにおいて重大犯罪をおかした個人の責任を問う国際的な努力への協力体制、とりわけ国連の新たな独立調査メカニズムの支援に消極的です。
例えば、最近行われたジェネーブでの国連人権理事会では、ミャンマーの人権状況について決議が取り扱われましたが、そこで
日本は再び棄権しました。その後、日本の棄権を受けて、ミント・トゥ駐日ミャンマー大使は感謝の意を示したのです。
では、なぜ日本政府はミン・アウン・フライン最高司令官のような人物を日本に招待したのでしょうか。ひとつの答えは、
日本の対中国政策にあります。ミャンマーを含む東南アジアでは、日本と中国の投資による競争が行なわれており、中国は年を追うごとに経済的なプレゼンスを高めています。実際に、今年7月には中国がミャンマーへの投資で日本を上回っています。(参照:
日本貿易振興機構)
競争が激化する中、ミャンマーに対して政治的な批判をすれば、ますます中国に傾いてしまうのではないか。
日本は官民一体となり、ミャンマー政府のご機嫌を取りつつ中国との競争を最優先事項とし、ロヒンギャの人権をないがしろにしているのです。
例えば、今年7月以降、ミャンマーでのビジネスチャンスに特化した4つの投資フォーラムが日本で開催されました。すべてのイベントが
日本貿易振興機構(JETRO)により主催あるいは後援されるものでした。
10月21日に東京の明治記念館で行われた「第2回ミャンマー投資カンファレンス」では、数百人の参加者がミャンマーの事実上の指導者アウンサンスーチー国家顧問兼外相を大きな拍手で迎えました。
「日本をはじめとする世界各国の友人から引き続き支援と理解を得られるよう、心から望んでいます」と同氏はスピーチで語りました。しかし、去年の投資カンファレンスと同様、氏がバングラデシュの難民キャンプやラカイン州に閉じ込められているロヒンギャの苦難について口にすることはありませんでした。
短期的に考えると、ミャンマーを含む東南アジアの人権問題を指摘せず、日本企業や投資家を東南アジアの市場に食い込ませることは、有益であるようにみえるかもしれません。
しかし、長い目で見れば、
人権侵害に加担する政府の民主化を妨害するだけで、地域全体に人権侵害を蔓延らせることを助長してしまいます。
これらは、
外務省が謳う「人権外交」が茶番にすぎないことを証明しています。しかし、新たな国連調査メカニズムを支援し、ロヒンギャのための法の裁きを追求することで、誤った軌道を修正していくことは可能です。例えば、11月に開催される国連総会第3委員会などを皮切りに、ミャンマー関連の決議に賛成票を投じるべきです。
また、日本政府は今後、決して、
少数民族の殺人、レイプ、大量追放を率いた軍の指導者を東京に迎い入れるべきではありません。ミン・アウン・フライン最高司令官の行くべき先は国際刑事裁判所であり、ロヒンギャに対する自らの加害行為について法の裁きを受けるべきなのです。日本の指導者たちによる「おもてなし」には値しません。
<文/笠井哲平>
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている